トラブル
──突然スカウトされてから2年。
年中曇り空が広がり、カラッとした暑さが続く海に浮かぶ小さな島で働いて半年程経っていた。
この仕事にもすっかり慣れ、同じような繰り返しの毎日を送っている。
前と比べて生活は安定しているし、毎日普通に暮らせるだけで十分だ。
事件なんて起きず、平和でいい。何かあったとしても小さなことで済めばいい。
毎日そうなるように心がけてきた。他に気にかけるとすれば、自分が『亜人』であることを周囲に気づかれないようにすることだ。
昔は、当然今よりも発展しておらず便利な物も少なかった。
けれどその代わりに人間と亜人の関係は今程悪くなかったらしい。
俺たち亜人は人間と違う部分がある。それは耳と尻尾だ。それぞれある動物の耳と尻尾を持っている。猫だったり犬だったり。
鳥とか人魚だとまた違った特徴があるが、人間と違うことは一目瞭然だ。
見た目が違うという理由だけで関係が悪化した……訳では無い。
答えは『力』だった。
亜人はそれぞれの動物に対応する『獣の力』を持っている。人間と亜人が戦えば、亜人が勝つのが当たり前。
それを知った人間が怯え、亜人を恐れるようになった。昔からそういう人はいたが、どんどん酷くなり人間が亜人を虐待、虐殺する──これを『人間が亜人を飼う』と言う。
逆に『亜人が人間を飼う』こともあった。
そんな血と憎しみの連鎖が続き、今に至る。
俺は人間の村で、そいつらを護る事を命じられた。
バレてしまえばここに居られなくなる上に、非常に厄介なことになってしまう。
幸い川や森に囲まれた田舎なので、人も少なくそのリスクは限りなく低いと思うが。
「見回りに行くか……」
ローブを羽織り、フードを深く被ると外に出た。
ゆったりとした川沿いを歩く。村に着き見回りを終え、元来た道を歩いていると──
「きゃぁぁ!だ、だれか………けて……!」
「い、妹が溺れて……!」
声のした方を見ると小さな女の子が川で溺れていた。
俺はすぐさま地を蹴り、川の中に飛び込んだ。
幸い流れは緩いためそこまで流されることなく、すぐ女の子の元に追いつくことができた。
「しっかり掴まってろよ」
「ひっく……ひっく………う、うん……」
女の子を抱きかかえ、陸に上がると駆け寄ってきた少女に渡す。
このままそっと去ろうとした時、少女が服の袖を掴んだ。
「……もういいだろ」
「ちょっと待ってて」
俺の方を一切見ることなく言うと、女の子の両親の元へ駆け寄る。
その隙に早足で小屋に戻った。
とにかく無事で何よりだったが、あの少女がとった行動は予想外だった。
俺があの場にいてもバレるリスクが上がるだけ。早く立ち去ろうとしたのにあいつはそれを止めた。
今後見回りする時に出会うと面倒だなと思いつつ、風呂場へと向かった。




