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Cross Navi Re:〜運命の交差〜  作者: noah太郎
第二章 秋人の場合
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絶望編 1-8 姉と弟

ソファーに座って、ひらひらと手を振る男に向かって、テトラは話しかける。



「あなたでしたか、クロス。またあの女が来たと思って、イライラしていたところです。」


「だろ?執事のババァの慌てようは笑えたぜ。俺だとわかると、舌打ちしやがったから、ボコしてそこに放り投げてあるけどな。」



ヒャハハと笑って、座ったまま自分の後ろを親指で示す。テトラがそちらに目を向けると、ボロ雑巾のような状態で、床に伏す老婆がいた。


テトラは再び、クロスと呼んだ男へと視線を戻す。



「で、今日は何の用?」



テトラがそう言うと、男はニヤリと笑みを浮かべ、



「例の奴、捕まえたんだろ?」



テトラはそれには答えない。



「おいおい、姉弟で隠し事はないだろぉ。」



そう言って、笑いながら立ち上がり、テトラの方を向いた。


テトラの倍以上はある、スラリと高い身長、髪は漆のように黒く、獅子のたてがみのように逆立っている。

目つきは鋭く、茶色い瞳と、両眼の下にある雫のタトゥーが印象的だ。

フードがついた、足首まで隠れるロングコートを纏い、黒い手袋をつけている。



「あなたの事、弟と思ったことは今までないわね。」



その言葉に、「おいおい」と言わんばかりの態度を取る男に、テトラは話を続ける。



「私のことも手伝わず、ふらふら遊び歩いておきながら、このように邪魔しに来るような輩を、私は弟とは思いません。」



少し声のトーンを下げて、じっとりとした目つきでそう告げるテトラに、クロスは少し焦ったように、両手を上げる。



「待って待って、姉ちゃん。今日は邪魔しに来たんじゃなくて、いい知らせを持ってきたんだよ。」


「良い知らせ?」



首を傾げるテトラに、クロスは続けて伝える。



「アルフレイムの異世界人。生きてたぜ。」



その言葉を聞いた瞬間、テトラはカッと目を見開いた。その表情を見ながら、クロスはテトラに告げる。



「…姉ちゃん、また悪い癖が出てるぜ。」



クロスのその言葉に、テトラは狂気の笑みに歪んだ顔に気づき、ハッとして表情を元に戻す。



「…そうですか。それは確かに良い知らせです。あの女にも、伝えてもらえる?」


「あいつは既に知ってるかもだけど、姉ちゃんの頼みだから聞いてもいいぜ?」


「…」



テトラは、満遍の笑みを浮かべているクロスをジッと見据え、一つ間を置くと、



「…何が望みです?」



とクロスに問いかける。その言葉を待ってましたと、クロスは口を開く。



「そのアルフレイムの異世界人。俺が遊んでいいかな?」



それを聞いたテトラは、一瞬キョトンとした表情を浮かべ、下を向いてフゥッとため息をついた。


こちらには秋人がいる。

それを知らないあの女は、アルフレイムの異世界人の捕獲を、また命じてくるだろう。それならば、クロスに手伝わせて、自分から目を逸らさせるのもいいかもしれない。


そう考えて、テトラはクロスに視線を戻す。相変わらずニコニコと笑顔を浮かべる愚弟に、テトラは口を開いた。



「遊んでもいいでしょう。しかし、あなたがその異世界人の捕獲を達成なさい。」



そう言われたクロスは、苦虫を潰したような表情を浮かべて、



「マジかよ!?それは勘弁してよ、姉ちゃん!俺はただ遊ぶだけでいいんだって!捕獲なんて面倒くさいし、あの女の命令を聞くとか、鳥肌が立つわ!」



クロスは必死に弁明するが、テトラは可否は問わないといった表情で、静かにクロスを見つめている。テトラの様子に観念したように、クロスは頭と両手をだらんと下げて、落ち込んだ素振りを見せた。



「わかったよぉ。姉ちゃん怒らすと怖いから、いっちょやってみるわ…」



頭を下げたまま、哀愁漂うような声色で、了解の意を伝えて、クロスは黒い霧を発生させると、その中へと足を踏み入れる。そして、体の全部が入りきる寸前で、テトラに対して、一言告げる。



「ここにいる異世界人も、殺さないでくれよ?」



そう言うと、黒い霧と共に、クロスは姿を消すのであった。


しかし、クロスの嗅覚は侮れないと、テトラは改めて思う。秋人について、痕跡は全く残していないはずだ。

普通なら気づかない。現にあの女は気づいていない。気づいたなら、その瞬間に秋人はあの女に奪われるはずだから。



「クロスには釘を刺しておかないと…」



ボソリと呟きながら、倒れている老婆へ合図する。すると、老婆はヨロヨロと立ち上がりながら、テトラに声をかける。



「お強くなられました…」



その眼には涙が浮かんでいる。



「あれで、性格が真面目ならよかったのですけどね。」



テトラはそう言って、部屋を後にした。 

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