タコの死体
翌日──。
「行ってきまーす!」
「わふ!」
いつも通りカニスを連れて散歩に出かけついでに、今日こそオートマトン──もといクロエの性能をあの二人に見せてやろうと思い切って家を出た……んだけど。
裏庭に続く通路から玄関口に向かうと、そこにはなぜか血みどろになった人……みたいなのが止まるんじゃねぇぞしていた。
「うわぁぁぁぁああああ!?」
「わふぉぉぉぉおおおおん!?」
あまりの唐突な事態に情報を整理することができず、思わず絶叫が飛び出した。
それはどうやら共にいたカニスも同じだったようで、思わず二足歩行になって固まってしまっている。
ちなみに、みたいなの、と付け加えたのは、もちろんそれが俺の知る人間とは違い、頭部がこう、SAN値をごっそり持っていきそうなフォルムをしていたからだ。
何といえばいいか、一言で言えば、頭がタコなのだ。
いや、悪口とかそういうんじゃなく。
文字通り。
触手ついてるし、なんかヌラッてしてるし。
なのにその下はスーツ姿の人の体。
一瞬、タコに頭を喰われてそのまま生き絶えた社会人かと思ったが、どうも触手の隙間から見える首の一部が、だんだんと触手の色へとグラデしているように見えるので、どうやら間違いないらしい。
「どうしたのー?」
「な、なんでもなーい!」
奥からマリアの声が聞こえてくるが、こんな現場は見せられない。
とっさにそう判断して断ってしまったけど、いや、これよくよく考えたらちょっと俺一人ではどう対処したら……えぇ……。
とりあえず、今のところこのグラストン坂通りに人影はない。
こんな状況誰かに見つかったりしたらなんて言えばいいかわからないし、精神が保ちそうにない。
マジSAN値ピンチ。
俺はPOWの値に自信がないんだ、マジでやめてくれ、マジで。
「と、とりあえず隠さないと……!」
「わふわふ!(お嬢、そんなことすれば死体遺棄事件ですよ!?)」
「だっ、だって、どうすればいいかわかんない…….!」
ようやく四つ足を地面につけたカニスが横からツッコまれる。
「そうだ、とりあえず空間魔法で──」
それでもこの状態を誰かに見られるのはまずい。
気がする。
直感的にそう考えた俺は、焦る心で必死に魔力を練り、亜空間へ続くゲートを死体(?)の下に開いた。
この魔法は俺が独自に開発した空間魔法の一つだ。
これは要するに位相を切り替える魔法の応用で──まぁ、難しいことをすっ飛ばして簡単に説明すると、いわゆる四次〇ポケット的なことができる魔法なのだ。
仕組みは全然違うけど。
結構魔力のコストとか難易度が高いので、焦っているとあまり成功しない魔法なのだが──ひとまず成功してよかった。
ファンブルしてたら多分ブラックホールみたいなのができてこの人の体がちぎれて亜空間に放り出されるところだったし。
……なんで俺、もっと別のところにゲート開かなかったんだろ。
「と、とりあえず証拠隠滅……っと」
「わふ……(それで、お嬢。どうするおつもりですか?)」
掌をパンパンと叩いて呟く俺に、今後の予定を聞いてくるカニス。
その視線はどこか残念なものを見るようで、なんだか心がチクチクしていたたまれない。
「と、とりあえずウィニスさんに相談……かな」
頼れる大人って、彼くらいしかいないし。
まぁ、いきなりそんなこと相談される彼もたまったもんじゃないだろうけど。
……スマホの人工知能の都市伝説思い出した。
この場合はウィニスさんが人工知能ってことになるけど。
⚪⚫○●⚪⚫○●
魔導街──ウィニスさんの経営するお店ニトロクリスに着いた。
店の前でカニスを待たせて店の中に入ると、今日はいつもより少し人がいた。
いつもはほぼ無人なのに、珍しい。
「あ、アリスちゃん!
体調はもう大丈夫かい?」
しばらくうろちょろしながらウィニスさんの姿を探していると(レジのところには見知らぬ女性店員が頬杖付きながらカタログを読んでた)天パの赤毛とそばかす、丸い体型にオーバーオールが似合う男性が奥の部屋から姿を現した。
「うん、もう平気。
それよりどうしたの?いつもはもっとこう、閑散としてるのに」
「まあね。
グランバルドさんが、君がいつきても対応できるようにって貸してくれたんだ。
彼女があんまりに綺麗だから、きっとそれ目当てに来てるんだろうね。
あと閑散は余計だ」
へぇ……ウィルさんが。
カウンターの方に視線をやると、赤い髪をアップにまとめた碧眼の女性が、こちらの視線に気がついてニッと口角を上げた。
たしかに、ちょっと美人かも。
まぁ、俺ほどではないけどな!
見よ、このサラッサラの銀髪と愛くるしい碧眼を!
この精巧なビスクドールのような容姿を!
……。
「今後、グランバルドさんに何か用事がある時は彼女に伝えてくれれば良いよ。
あと閑散は余計だ」
大事なことなので二度言いましたとでも言いたげに、優しい笑顔を浮かべながら強調する。
そ、そんなに気に障ったのかな。
「それはそうとして」
「君って時々サディスティックだよね」
話題転換と切り出したセリフにウィニスが肩を竦めながら付け加えるが、サラッと無視をする。
「ちょっと相談があるんだけど、いいかな?
奥の部屋で話したい」
「あー、そろそろ彼女を休憩させてやりたかったんだけど……いいかな?」
後半をレジの女性に向かって尋ねると、『いっスよー』とサムズアップしたのを見て、奥の部屋へと移動した。
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