参上、ツェペシちゃん!
どうも。
昨日やっと人型オートマトンメイドを完成させましたアリス・トルソンです。
今日はウィニスさんとの約束通り、彼のお店で買ったアイテムを使って作り上げたオートマトンを披露するべく、カニスの散歩ついでに魔道街にやってきております。
「ウィニスさーん!」
大きなリュックサックを背負った体で、カニスの上から飛び降りる。
「お、アリスちゃん。
ちょうどいいところに」
「?」
店に入ると、ウィニスさんがいい笑顔をしながらこちらへと手招きをしてきた。
不思議に思って近づくと、そこには背の高い、がっしりした体つきのおじさんが立っていた。
金色の短い髪の毛に、顔の輪郭を囲う短めだが整えられた同色の髭。
仕立てのいい燕尾服に羊毛のワイシャツとそれから白のベスト、それから亀をモチーフにしたステッキが、筋骨隆々な肉体になかなかのミスマッチでどこかコメディチックな印象を受ける。
ちなみに近くのカウンターテーブルの上に黒いシルクハットが乗っていることから、普段はそれも被っているのだろうと思うと、どこかこみ上げてくるものがある。
「この方はうちに商品を卸してくれてるレモネード社の営業マン、ウィルバート・フォン・グランバルドさんだ」
名前からしてどうやら貴族なのだろう。
爵位がどうとかよくわからないが、とりあえず地位は自分より上らしい。
俺は自分のエプロンドレスの裾をつまむと、カーツィーをして自己紹介することにした。
「アリス・トルソンです」
「ウィルバートだ。
ウィルと呼んでくれて構わないぜ、堅っ苦しいのは苦手なんだ」
ゴツゴツと大きな手をこちらに差し出してくるのを、おずおずと言った風に握り返す。
「えっと、ウィル……さん?」
「おう、それでいい」
ガハハ、と意外にもというか案の定というか、豪快な笑い方を見せながらこちらの頭をわっしわっしと撫でくりまわしてきた。
むぅ、止めろよそんな乱暴に撫でるの!
これセットしたりするの大変なんだぞ!
まぁ、今はストレートだから言うほどだけど。
ちょっと迷惑そうな顔をしながら、ボサボサになった頭に両手を置いて、ちょっと不満そうな顔を見せてやる。
それはそうと。
「それで、ウィニスさん。
さっき『ちょうどいいところに』って言ってたけど、どう言うことなの?」
「あぁ、実はさっき彼とアリスちゃんのことを話していたんだ。
彼、アリスちゃんと同じ魔道具オタクの魔導技師だからね、こんなちっちゃい子供が魔道具を部品から組み立てて作ってるって話したら、興味持ったみたいで」
オタク……。
前世で言われ慣れたそのワードに、少し苦い笑みを浮かべる。
一応、自分でも自覚しているが俺は隠れオタクだ。
周囲には普通の女の子として振る舞って見せているが、その内実は魔法陣の設計とか魔道具の設計とかいう、特別な知識がないとできない高度なことをやってるれっきとした魔道具オタク。
前世ではそこまで突っ込んだオタクではなかったけど。
……それにしても。
「……」
「ん?」
筋骨隆々な癖に、こんな頭を使う魔道具オタクがいるものかとしげしげと眺めていると、片眉をピクッと持ち上げてこちらに反応された。
反応されたけど、何を話していいかわかんないや。
相手がよくお世話になってるレモネード社の営業マンだと言われても、間違えない対話の仕方がよくわからん。
分からなくて、何を話していいか分からなくて、その言葉だけが頭の中をグルグル回る。
ダメだ、生前から引きずったコミュ障が鎌首持ち上げてきやがった。
かと言ってウィニスさんの後ろに隠れるのは嫌だし……どうすれば……。
──と、相手の出方を待っていると、何かを察したのか、ウィルさんは腰を屈めて視線の高さを合わせると、おもむろに自慢らしい筋肉をムキッと力ませて笑顔を作った。
「こんな鍛えてる俺がTEだなんて、ちょっと驚いたか?」
「は、はい。
だってこんなに鍛えてるのに、想像できませんよ。
営業マンだってことも、ちょっと信じられませんし」
魔道具を作る職人──一般に魔導技師やタリスマン・エンジニア、TEと呼ばれる人たちは、細かい作業をすることが多いから、俺からすれば線が細くて手先が器用なイメージがある。
作業そのものに力を使う部分なんてほとんどないから余計に筋骨隆々な人間がそんな手先の器用なことをしていると言うイメージが湧いてこないのだ。
それに、これは偏見かもしれないけど、筋肉を鍛えてる人って手先が不器用な人が多いイメージだし。
服装に加えてやってることまでミスマッチとは、なかなか面白い人だと思う。
「がははっ、よく言われるぜ。
鍛えてるのは、まあ趣味みたいなモンだからな。
それに、鍛えてるといいこともある」
「いいこと?」
分からなくて首を傾げる。
すると、とても単純な答えが返ってきた。
「重い部品がたくさん運べるだろ?」
「な、なるほど……」
俺なら魔法でなんとかするけど、そうできない人にとって筋肉は運搬に便利という認識なのか……。
「……」
再び沈黙が訪れる。
もう彼と話すことも、話したいこともなくなった。
さて、こらから俺はどうするべきか。
そんなふうに悩んでいると、不意にウィニスさんの口が動く気配がした。
「そういえばアリスちゃん。
今日は昨日買ってくれた霊圧アンプと魔力オイルを使って作った魔道具を見せてくれる約束だったよね?」
話に詰まったと察したウィニスが、助け舟を出してくれたのだろう。
ナイスウィニスさん!
ありがとう!
やっぱり知ってる人って安心する。
「そうだった。
えっと、結構おっきいんだけど……」
やっぱりコミュ障にいきなり見知らぬ人との対話ってのはハードルが高いわ。
俺は彼の自宅のような安心感のある声にホッと胸を撫で下ろしながら、リュックに取り付けた魔法陣に魔力を流して内部の位相を切り替えた。
途端、ズン、と重くなる。
よかった、床に下ろしてから起動して。
ファスナーを開いて、中から昨日完成させたオートマトンを引っ張り出す。
自力じゃ重いから筋力強化の魔法を使って鞄から出した。
それは、黒髪の少女の姿をしていた。
見た目の年齢は九歳くらい。
キャバルリーシャツとワンピースを足したような焦げ茶色の衣装を着ていて、長い睫毛の揃ったまぶたはピタリと閉じられている。
我ながらこの顔面部分の造形はかなり頑張ったと思ってる。
超自信作。
「えっと、人型のオートマトンなんだ。
コンセプトは、限りなく人間に近いオートマトンだから、起動させたら計算上は人間と同じように会話できるようになってるんだ。
どうやってそれを実現したかっていうのはまだ内緒なんだけど、でもほぼ確実に成功すると思うよ。
まだテストはやってないんだけど……って、あれ、ウィニスさん?」
作品の説明をしていると言うのに全く反応が返ってこない事に不審に思い、顔を上げて見てみる。
するとそこには、口を開けたまま唖然としてこちらを見下ろしている二人の姿があった。
これ、もしかしてあまりにも驚きすぎてフリーズしちゃってんのかな?
そう思って彼の目の前に手を振りかざして『おーい』とか、よくある例のアレをやってみる……も、無反応。
「……あれ、おかしいな。
ウィニスさん?起きてるー?」
「無駄だぜ」
と、不意に背後から声が聞こえてきた。
「誰!?」
驚いて、慌てて後ろに振り返る。
するとそこには金髪縦ロールのちょっとパンクなゴスロリ風衣装を身につけた少女の姿があった。
よく見れば、その足元の影からは気泡のような物が浮かんでは弾けて消え、その合間にタコか何かの触手のような物がひらひらと泳いでいるのが見えていた。
「ワタシの名前はツェペシ!
魔王軍幹部の第三師団団長なんだぜ、すごいだろ!」
……ま、魔王軍?
なんだこいつ、厨二病か?
目を眇めて、訳の分からない頭の痛い子を見るようにポカンとした表情を見せる。
「あ、お前今バカにしたな!?
ワタシ、ホントーに魔王軍の幹部なんだぞ!?
師団長なんだぞ!?」
「……は、はぁ……?」
地団駄を踏みながらそう説得しようと眦を上げて怒るツェペシ。
そんなこと言われても……。
ていうか、それよりもまず足元のそれが気になるんだけど……なんだよ、足元の変な液体……。
幻惑魔法のファッションにしては悪趣味すぎるだろ……。
「まぁいいや。
今はそんなことよりも、あのでっかい犬の飼い主であるお前に用があるんだ」
「でっかい犬……って、カニスのこと?」
「そうだぜ。
ワタシはちょーシンシだから?
他人のモノは勝手に盗っちゃいけないって決めてんだ。
……だから、まずはお前に許可を取らなきゃいけない」
……なんか、話がきな臭い方向に向いてきたような気がしてきたぞ。
俺は無意識に重心を下げて、いざという時に備えて魔力を練り上げておく。
すると、彼女はニッと口端を吊り上げると、ギザギザの歯をこちらに見せながら、陳列棚に囲まれた店内の中、こう切り出した。
「お前の犬、ワタシにちょーだい?」
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