薄明アユリ love of 双利
「あっ、二人ともおはよぉ。」
僕たちは校門前で偶然クラスメイトである薄明鮎璃さんと出くわした。
まずオサムが挨拶を返し、僕もそれに続いて
「おはよう。薄明さん。」
と普通に返したつもりだったが
「どうしたの祇峰くん?何か悩み事?それともまたお母さん?」
「ブッ!?」
とまた見事に挨拶一つで僕の事情を察せられた。
僕、そんなに顔に出やすいのか?と自分のポーカーフェイスの精度に疑念を抱いていると、
「俺に相談できないなら、この朝の薄明さんとの運命的な出会いに便乗して相談に乗ってもらえよ。ついでに告白もこの際……」
と、僕の耳元でムカつくモテ男がからかい目的の助言を囁いてくる。
「うるせぇ、ほっとけ。」
と軽くあしらったつもりだったが、その時にはスポーツ万能のお節介野郎は猛スピードでグラウンドに向かって走り出していた。
なんて速さだ。
振り向き様の親指グッドサインは2人きりにされた僕への激励だろうか。一連のスピード感がなんか腹立つ。
取り敢えず僕は何があったのかわからず不思議そうにしているアユリさんに対して
「オサムは朝練みたいだね。あと心配しなくてもいいよ。母さんはいつものヤツだから。」
と彼女からすれば奇妙なオサムの行動の言い訳をしつつ、さっきの質問に答えたが、彼女はどっかで見たような腑に落ちないという顔をしている。
「まぁ、無理に言わなくてもいいけど困った時は頼ってね。」
やはり僕のポーカーフェイスは使い物にならないらしい。こんなやりとりを数分前にもやった気がする。
だがその中での彼女の心配りには心打たれるものがある。
彼女は外見的にも能力的にもあまり目立つタイプの人間ではないが、その優しさだけで僕の中では完璧少女に位置付けていい。
ちなみに誰かさんのせいで既にお気づきの方も多いと思うが薄明鮎璃は僕の想い人である。
彼女もまた小学校からの同級生であり、その頃からずっと拗らせている。だから毎日のようにオサムに告白を促される。
確かにどこぞの女子共と違いオサムに惚れている様子もなければ、恋愛絡みの噂もないので僕にもチャンスはあるように思える。
しかし、高校に上がるまでにも関わることが多く今は数少ない女友達といえる仲になっており、下手に告白でもしてその関係にヒビを入れることが正直怖い。
心の中だけで下の名前を呼ぶぐらいが限界だ。
だからこれ以上関係を深めようとはせず、今はただの友達として関わり続けている。
まぁ、そんな複雑な想いを抱きながら僕は彼女と友達してることとは別に今この母が死線を彷徨う状況の中で告白なんてできるわけがない。
また母の容態の事もさっきの気遣いを改めて見せられると余計に心配や迷惑をかけたくなくなり、相談する気は起きない。
だから僕は、
「ありがと、本当に困ったら頼るよ。」
と軽く返し、アユリさんの少し不満そうな顔に申し訳なさを覚えながら、会話を今日の憂鬱な授業の愚痴へと方向変換した。
いろいろ2人に勘付かれた気もするが、総合すれば結局いつもと大差ない朝を過ごしたと思う。
母があんな状況にも関わらず……。
ここで取り乱すこともできず学校に行けていること、僕の顔を曇らせていたのは心配ではなく罪悪感の方であろうということ。
このような些細に思えることに気付くたびにまた新たな罪悪感が生まれ続け、僕の心は1日中晴れることはなかった。