未来へ葉開くフタリ seventeen years ago
「じゃあ……、えーっと……、うーんと…… 」
「いもうとと、おとうとがほしいなぁ。 」
「あっ…… 」
「それでね、おねえちゃんになってね、えほんよんであげたりね、おままごとしたりするの。」
「そっ……か。そうだよねぇ…… 」
「どうしたの……? ダメかなぁ……? 」
「ううん……よしっ!! じゃあ指切りしましょっ。」
「ゆびきり? なにをぉ? 」
「お誕生日には間に合わないけど、私はあなたのお願い叶えられるように頑張るっ。 だからあなたは…… 」
「その子たちを守り信じる最高のお姉ちゃんになってね……ユイガっ。」
「うん、おやくそくするっ。」
「よぉ〜し、良い子ねっ☆ じゃあ…… 」 スッ
「ゆ〜びきりしましょ♪ ウソついたら……♪
「ゆ〜びきりしましょ♪ ウソついたら……♪
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「えっ? もう一人産みたいだって……!? 」
「うんっ♪ ユイガが弟と妹が欲しいってっ。だから、二人は無理でも……セイジさん、ダメかな? 」
「ダメも何も君はユイガを産んだ時に体を壊して、もう一度出産できるような身体じゃないって分かってるだろ……? だから、ユイガの名前だって、僕達の大切な “唯”一の “芽” という意味も込めて…… 」
「もちろん分かってるよ。でも、そのせいで今も私寝込んじゃうことがあるでしょ? 土日はあなたが遊んでくれるけど、平日は仕事があるし、あの子の遊び相手になれる時間が限られちゃって…… 」
「それだからって、もっと寝込むことになるようなことは…… 」
「でも、ユイガが全然ワガママ言わないの知ってるでしょ? 」
「あ、ああ、確かにあまり物をねだったりはしないな。」
「多分、私の寝込む姿とか、体調的に辛そうなのを見てあの子なりに気を遣ってるのよ。遊んでほしくても、絵本ばかり読んで我慢してる。まだ三歳なんだから、もっと甘えてくれていいのに、たくさん無理させてくれていいのに…… 」
「そんなユイガがようやく言ったワガママが弟と妹……、確かに叶えては上げたいが、君の体も…… 」
「だから、一回お医者さんに相談だけさせてっ。妊娠が絶望的って言うなら、諦めるから……!! 」
「ハァ……、とりあえずは相談だけだぞ? 」
「やったぁー♪♪ ありがとね、セイジさんっ♡♡♡ 」
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「検査の結果ですが、思った以上に体調も順調に回復してるみたいだし、無理な話ではないと思いますよ。」
「本当ですかっ!!? やったねっ!!! セイジさんっ!!!! 」
「ああっ!! 良かったなっ、マユコっ!! 」
「ただし、油断は出来ません。比較的回復しているというだけですので、マユコさんの体は未だにデリケートな状態。ほんの少しの問題が、望まない結果に繋がってしまいかねません。医者としておすすめはできないのですが…… 」
「いえっ!! 私達、絶対に産みますっ!! 」
「うーん……決意は固いようですし、しっかりこちらが提示する条件を守って体調を整えてください。私達も出来る限り、悪い可能性をなくして行きますから。」
「はいっ!! よろしくお願いしますっ!! 」
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「おかあさん、おなかおおきくなったぁ? 」
「うん、この中に新しい家族がいるのっ♡ もうちょっとすれば、ユイガもお姉ちゃんよっ♪♪ 」
「わたし、おねえちゃん……? 」
「ええ、ユイガお姉ちゃんねっ♡ 」
「やったぁー! たのしみぃっ!! 」
「うんうん、楽しみだねぇ……☆ 」
「いろいろ頑張ってやっとここまで来たな。でも、ここからもっと油断はできないぞ。辛かったらすぐ僕に…… 」
「うん……じゃあ、ちょっといい? 」
「ん? どうした? 」
「今……ヤバい、かも…… 」
バタッ……!!
「っ!!? マユコぉぉぉぉぉぉっ!!!! 」
「っ!!? おかあさぁぁぁぁんっ!!!! 」
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「双子ですか……? 」
「双子ですか……? 」
「ええ、このように、エコー写真に僅かですがもう一つ影が見えるでしょう。明らかにお腹の中のお子さんは双子です。」
「双子……マユコの体のことを考えると、これは喜んでもいいことなのでしょうか? 何か負担が大きくなったり…… 」
「一般的には、双子を授かったからと言って、一人のお子さんの場合との負担量と比べて特別大差はありません、もちろん、いろいろなケアは必要なので、全く同じではありませんが…… 」
「私の場合は違うってことですか……? 」
「何が原因なのかはまだ分かりません。双子の負担というよりも、妊娠自体の負担かもしれません。ですが、マユコさんの体調に予測しえなかった良くない変化が現れて初めているのは確かです。」
「まさか、産めないってことは…… 」
「いえ、今のところはまだ大丈夫です。ただ、これまで以上に体調管理に気を付ける必要があるということです。」
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「名前なんだけどさ、フタバとミライにしない? 」
「さっき危ないかもって聞いたばっかなのに……相変わらず、君は呑気だな。」
「でも、悪いことばっか考えてもダメでしょう? お医者さんの言うこと聞いて、無事産まれてくることを一番に考えないとねっ♪ それに一気に二人も家族が増えるっていう喜びの方が、不安より勝っちゃってるしっ♡ 」
「まぁ……それもそうだな。その前向きさが君のいいところだし。」
「えへへっ、いつだったか、そこに惚れたって言ってくれたもんねぇー♡ 相変わらず、そういう所は可愛いんだからぁ♡♡♡ 」
「う、うるさい、君は僕をからかう性格が変わってなさすぎだ。それで? どうして、フタバとミライ? 」
「ほら、ユイガの名前って、自分だけの夢を叶えて欲しいとかの意味の他に、私達の唯一の芽って意味も込めたでしょ? でも、このお腹の子たちが生まれたら、唯一じゃなくなる。だったら、あの子の名前の意味も変えて上げようと思って。」
「じゃあ、漢字は “双” 子の “葉” で双葉と、“参” の蕾で参蕾か? ユイガの唯一の意味を一という数字にして。そして、芽から大きな花へ繋がる成長を込めて。」
「さっすがっ、セイジさんっ!! 私の考えてることは丸わかりだねぇ♡ 」
「まっ、夫婦だしな。だから、僕のことも遠慮なく頼れよ。」
「分かってるって♡ 」
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「ゴホッ、ゴホッ……!! 」
「おかあさぁん、だいじょうぶぅ……? 」
「だ、大丈夫よぉ……赤ちゃん産む準備がちょっと大変でね……♪ 」
「お腹は順調に大きくなっても、なかなか体調安定しないな。」
「ゴメンね、色々任せて入院しちゃって。」
「気にするな、それくらい。ユイガだって、お手伝いしてくれてるもんなぁー? 」
「…… 」
「ユイガ? 」
「ごめんねぇ…… 」
「えっ? 」
「わたしがいもうとも、おとうともほしいっていったから、ふたりもうんでくれるんだよね…… 」
「いや、それは…… 」
「でも、わたしがわがままいったから、おかあさんがたいへんなんだよね…… 」
「ユイガ、お母さんはそういうわけじゃ…… 」
「わたし、おかあさんがいなくなっちゃうなら、いもうともおとうとも、いらな…… !!」
「言っちゃダメっ!!!! 」
「えっ……? 」
「言わせないよ、ユイガ。約束したよね? 生まれてくる子達を守って、信じるって、素敵なお姉ちゃんになるって。」
「う、うん……、そうだけど…… 」
「だったら、そんなこと言っちゃダメ。この子たちだって、今も一生懸命お腹の中で生きてるの。あなたはもうお姉ちゃんなんだよ? 」
「わたし……もう、おねえちゃん……? 」
「ええっ!! お姉ちゃんなら、二人の事ちゃんと待ってて上げないと。」
「で、でも…… 」
「でも、じゃなぁいのっ♪ フタバもミライも、あなたのためだけに生まれてくるだけじゃなくて、お母さんのためにも、お父さんのためにも、この子たち自身のために生まれてくるんだよ? だから、この子たちは私たち家族みんなで産むの。」
「みんなで……? 」
「そう、だからお姉ちゃんはお父さんと一緒にこの子達の事、無事産まれてくるように応援して上げて。」
「もちろん、お母さんのこともなっ。」
「……うんっ!! わかったっ!! おうえんするっ!! 」
「よぉし、いい子ねぇー!! よし、よし、よしー!!」 ワシャワシャワシャ……
「でも、おかあさんもいなくなっちゃやだよ……? 」
「ええ、お母さんもちゃんと生きるわ。」
「じゃあ、ゆびきりねっ…… 」スッ
「………ええ、お約束しましょっ。」
「ゆ〜びきりしましょ♪ ウソついたら……♪
「ゆ〜びきりしましょ♪ ウソついたら……♪
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5月22日
「ふぅ……、ふぅ…… 」
「ふぅ……、ふぅ……大丈夫だからな、マユコっ!!落ち着いて、ゆっくり…… 」 ギュゥ……!!
「ぐうううっ…… !!ぐわあああああっ……!! 」
「マユコっ!! 僕も付いてるっ!!子供達もっ頑張ってるっ……!! だから……!! 」
「ぐううっ……ゔああああああああああああああああああーーーーーーーー!!!!! 」
「マユコっ!!? マユコぉーーーーーーーーーーーー!!!! 」
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「うええええんっ……!! うえええええんっ……!! うええええええんっ……!!!! 」
「…… 」
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「スゥ……、スゥ……、スゥ…… 」
「マユコ…… 」
「おかあさん…… 」
「…… 」
「先に生まれたあの子のことは、ただただ残念だ…… 」
「…… 」
「僕も悔しいさ、自分にも何かできることがあったんじゃないかって思ってしまう…… 」
「…… 」
「でも、君は精一杯頑張った。ユイガもずっと応援してた。病院の人たちも出来る限りの手を尽くしてくれた。フタバも、ミライも一生懸命生まれようとしてた。出来ることは全部やったさ…… 」
「…… 」
「だから、今はみんなの一生懸命で生まれてきてくれた、この子の無事だけでも喜んであげないと…… 」
「……生きてるわ。」
「……え? 」
「……え? 」
「二人とも生きてるのよ…… 」
「どういう、意味だ……? 」
「あの子も生きてるの、この世界のパラレルワールドで…… 」
「いや、パラレルワールドって、そんなものが存在するわけ…… 」
「存在するの。だって、私がその世界を創ったんだもの。」
「マユコ、現実を受け止められないのは分かるが……その顔、本当なのか? 」
「ええ、本当よ…… 」スッ……
「っ!!? 」
「なぁに……? その手袋……? 」
「私……じゃなくて、多分この子達が神様の力に選ばれたの……世界を二倍に出来る双子座の力に。 」
「か、神の二倍……? 双子座……? 一体君は何を……? 」
「今から詳しく話すね……でもその前にひとついい? 」
「あ、ああ……なんだ? 」
「この子の……この子達の名前なんだけど、ユイガの数字は残しつつ……別世界にいるもう一人の家族の存在を込めて、双子の二人が必ず同じ世界で揃うことを願って…… 」
「フタリ……、祇峰フタリって名付けましょう…… 」