祇峰双利 family
「強い想いが新世界でバグを生み出せるのは、世界が二倍にされたという事実と、十七年間の私達の存在そのものが証明している。」
「だから、僕らが生き残る方法もバグを生めばいいってことだ。祇峰フタリが排除の対象から外れるバグを、新世界で存在出来るバグを。」
“愛=歪” を告げ終えた私達は、続けてそこから考えられる消滅回避の方法をまとめ上げる。だけど……
「つまり、私達もお互いを愛すれば……とか実際に口に出すのは何か恥ずかしいな。」
生きるための方法とは言っても、そのドラマチックさとロマンチックさに少しでも自分の発言を振り返ってしまうとすぐに顔が熱くなってくる。
自分のブラコン度合を信じるみたいな方法だし、成功したら成功したで、会ってから二十四時間もたたない間に世界をバグらせるほどの想いを兄抱いたなんて思うと、きっと新世界で恥ずかしさと自分のチョロさに床をのたうち回る。十七年前に戻ったとしたら、連続寝返りを一瞬で習得する。
「ま、まぁ、そこまで重い表現じゃなくてもいいか。新たな家族として、もう一人をただ求めればいい。あんまり愛とか過剰に意識しすぎると返って迷いが生まれかねないしな、思春期の僕達には。」
そう言って、解釈を微妙に変える彼の顔も少し赤い。照れ出したのはお互い様みたいだ。
「そ、そうね。下手な恥とか迷いは失敗に繋がりそうだし。」
なんたって、私達は今から奇跡を起こそうとしているのだ。
心の不安要素は出来るだけ取り除かないといけない。
けれど、新世界の構成は当然一度きり。だから、奇跡のチャンスも一度きり。
失敗は許されないどころか、誰かに許されないという実感を得る機会さえ、自分たちの存在と共に失われる。
だから、下準備は入念に……
……なんて、きっと本当はしなくてもいい。今のやり取りも思春期故のポーズだ。
これからやろうとしているのは奇跡というよりは、無謀な賭け。あまりにも不確定で、成功保証がない。
私達のために世界をもう一つ創ってしまうようなお母さんと、同じことが出来るとも限らない。
でも、自信がある。未来を確信していると言ってもいい。
どれだけ無謀でも、保証がなくても、
どれだけ恥ずかしくても、イタくても、
どれだけ出会ってからの時間が短くても、
この兄貴が私の世界に欲しい。
馬鹿馬鹿しくても、
思春期真っ只中の変態でも、
カッコつけのクセに決まらなくても、
慰めてくれた兄が欲しい。
傍にいてくれた兄が欲しい。
気遣ってくれた兄が欲しい。
守ってくれた兄が欲しい。
そんな兄がいる祇峰家の日常が欲しい。
この気持ちは揺るがない。
彼への想いは決して揺るがない。
私は彼と双子でありたくて、家族でありたい。妹でありたい。
心の底からそう思えるのだから、この想いの先に未来がないなんてあり得るワケがない。
だから、私は自信を持って、新世界に願う……
「私はあなたを家族として、兄として、新世界に求める。」
「だから、フタリ。あなたも私を求めて…… 」
「家族として、あなたの妹として。」