フタリと世界と真実と measure
「…… 」
「…… 」
「え、えっとぉ…… 」
「え、えっとぉ…… 」
「…… 」
「…… 」
「ま、まっ、つまりは子供を見捨てれなかった母さんのワガママだ。」
「…… 」
「…… 」
「ア、アハハハッ、私達のママだけに? 」
「………… 」
「………… 」
(何スベらしてくれてんだコイツ!! 余計に俯いちゃったじゃねえか!! )ギロッ
という怒りを込めた視線を隣の余計な発言女に送ると、
(うっさい!! 場を和ませようと思ったのっ!! ) ギロッ
……みたいな雰囲気ですぐ睨み返された。
並行世界の真実に次いで僕らが告げた、二倍世界の真実。
それを聞いた直後、親友二人は下を向いて、考え込むように黙り込んでしまった。。和ませたかった彼女の気持ちも、普通に分かる。黒羽さんも気まずくてキョロキョロしてるし。
「二人とも……そうだよな。 」
「二人とも……そうだよね。 」
きっと、黙り続ける二人は位置づけに手間取っている。
祇峰フタリ達の母が十七年に渡って引き起こし続けた世界二倍の超常。
昨日から、全人類にドッペルゲンガーを引き合わせて大混沌に陥れた超常。
突如として、そんな人類二倍が起きた世界中では、いくつもの大事故や乱闘。それによる医療逼迫や、混乱を利用した犯罪の多発。これら以外の問題もニュースで画面越しに見た。実際にもそんな光景はたくさん見た。いくつもの命が巻き込まれる瞬間を。
二人から一人への回帰時に人類から怪我や記憶が消え去ったとはいえ、その全ての原因である人間を無罪とできるのか。
そうでないとしても、無事に二人揃って生まれ出でなかったであろう双子の息子と娘をどちらも生かそうとした一人の母親を罪人として咎められるのか。
今となっては法律に裁かれたりしないし、それを判断するのは難しい。黙る二人もそれをずっと考えてしまっているのだろう。
だが、これだけは分かる。
「やっぱり、割に合ってないもんな…… 」
「やっぱり、割に合ってないもんね…… 」
世界を巻き込んだ割には、得られた成果は二つの命だけ。
70億人 / 2人 を救うために片手で数えられる分子の方でなく、この星を包む膨大な母数の方を犠牲にしかけた。
祇峰フタリ関連の物以外が全て元に戻る保証はおそらくあったのだろうけれど、
無実となることは前提だったのだろうけれど、
記憶のある人間にとっては、
記憶を戻した人間にとっては、
忘れがたいあの一連の光景を完全になかったことには出来ない。
さっきまで目の前の妹の死と僕の死だけに囚われてきたが、こうやって世界に与えた影響に目を向けて振り返ってみると、生き残ろうとしている今に罪悪感が溢れてくる。
「やっぱり、こんなちっぽけな命…… 」
「やっぱり、こんなちっぽけな命…… 」
ヤバいな、この気分……
生きることに疑問を覚え始めた気がする。
ヒビによる死を受け入れようとし始めた気がする。
消滅回避に必要なものが揺らぎ始めた気が……
「言わないでっ!! 」
「言わないでくれっ!! 」
「えっ……? 」
「えっ……? 」
黙ったままだった二人が急に口を開く。
「割に合わないとか、ちっぽけとか、そんなこと言っちゃダメだよ……!! 」
「いろいろ巻き込んだと言っても、お母さんが必死につないだ命なんだろ……? 」
「これを肯定しちゃうと、世界がどうでもいいみたいになると思って、しばらく考えちゃったけど……本当は考えるまでもなかった。 」
「世界とお前らを天秤に掛けそうになったけど……本当は計るまでもなかった。」
「やっぱり、私達にとってあなた達フタリは…… 」
「やっぱり、俺らにとっておまえ達フタリは…… 」
「この世界中よりも大切な存在。」
「この世界中よりも大切な存在。」
「だって、そもそも…… 」
「だって、そもそも…… 」
「私達にとっての世界の中心は、祇峰フタリなんだから。」
「俺達にとっての世界の中心は、祇峰フタリなんだから。」