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全人類の十七年 parallel



 「し、信じられないな……、本当に並行世界が存在したことだけでも驚きだったのに、それが双子座の力で創られたものだったなんて…… 」


 「えっと、私もチサトも今年十七歳だから……生まれてから、ずっと二倍になった状態で生活してたってことっ!!? 」


 僕の話を聞き、全てを確信した様子の彼女と伝えた世界の真実。

 僕らフタリの十七年の真実とも言え、彼らにとっての真実とも言える世界の姿。

 そして、世界ごと二倍にされていたという今までの自分の姿を告げられた四人は、さらなる衝撃を受ける。


 「しかも、今お母さんって言ったよね……? 」


 オサム、黒羽さんに続いて、今アユリさんが疑問と共に口にした、超常を引き起こした者の正体にも。


 「ああ、昏睡状態にまでなって、この世界を十七年間倍増させ続けていたのは僕ら祇峰フタリの母、祇峰真由子だ。これは間違いない。」


 アユリさんの問いにこれ以上ない断言で答える。


 「だが、それではあまりにも矛盾が大きいぞ。その結論に至った根拠を教えて貰いたいな。」


 まぁ、杉佐多の要求は当然である。

 大まかな真実は伝え終わったものの、ここまでの謎解きだけでは解除されていないパラドックスが足元に散らばっている。なんなら、さっきの一連の謎明かし台詞のせいで、彼らにとっての矛も盾も増やしてしまったっぽい。二人がかりで余計に。


 「似てるんだか、似てないんだか、よく分かんないけど、双子揃って探偵役には進行者的に不向きらしいわね。 」


 その意見には完全同意だから、似てるのかもな。

 

 「よし、ここは時間短縮のためにも、敏腕司会者の異名は持ってないだろうが、素質はお持ちであろう杉佐多チサトくんに、さりげなく進行をぶん投げるか。」


 「誰が司会者だ。口に出てるぞ。」


 「それがいいわね。あくまでさりげなく。」


 「だから口に出てる。ヒビだらけなのに、結構余裕だな君ら。」


 「まぁね、戦い終わって安堵してるし。後は時を待つだけだし。」


 「時……? 」


 「その辺も追々説明するから、気になる矛盾とか疑問を一つ一つ上げてくれないか? Q&A方式で行こう。」


 「進行を投げるって、そういうことか。」


 「聞き手の四人が理解しやすい順番で頼む。」


 「オレはその聞き手の身内なんだが……まぁ、教えてくれるのならなんでもいいか。」


 というわけで、Q側を了承した杉佐多に謎解きの主導権を握らせることに成功した。

 探偵の立位置は譲ることなく、あくまでさりげなく……さりげなくってどういう意味だっけか。


 「じゃあ、まずは時期だ。十七年前と分かったのは、君達の年齢からか? 」


 早速Q1が始まった。

 その口振りからして、彼の中でもそれなりの推測が立っているのが分かる。任せて正解だったな。


 「ああ。僕ら双子の誕生日は5月22日で、今日十七歳だから。」


 「私達の生死の別れ際についてはよくわかんないから、十七年前のちょうど今日に世界が二倍になったのかどうかは、判断しかねるけどね。」


 僕の回答に続いて彼女が補足を加えてくれる。


 「なるほど。なら、次は発動者だ。」


 続くQ2。ここからの質問が彼らの引っかかる矛盾解消の始まりになりそうだ。


 「十七年前という数字から、君達の母であると推測するのは納得できないでもない。だが、力についてはどう説明する? 君達が選ばれ、今日目醒めたばかりの双子座の力が何故十七年前に、しかも母親とは言え、別人物がその力を使用できたんだ? 」


 杉佐多の口から出たのは予想通りで解消必須の内容。全ての始まりである人間自身に矛盾が残されたままでは謎は解き始めようがない。これへの答えが真実への最初の大きなカギとなる。


 「私達が覚醒する前、頭の中の声は自分の存在をこう表したの。“引っ越し”って。」


 「“引っ越し”なんて表現するということは、“引っ越し元”があるはず。アイツの移動は二倍の力の移動と同じだろうから、十七年前からの二倍に辿り着く時に予想は簡単についたよ。僕らの前に双子座の神様と一体化して、神能を使えた人間がいたんじゃないかって。」


 引っ越し元は母なんじゃないかって。この力は母から引き継がれた力じゃないかって。

 その元が親父や姉貴である可能性もあるにはあったのだが、姉貴は既に別のゾディアックであるようだし、ありとあらゆる体内エネルギーを大量消費しそうな、世界を二倍にする奇跡を十七年間も保っていたとなれば、その役を担ったのは今も眠り続ける母としか考えられない。その原因が依然不明なのも、神の力の副作用と思えば納得がいく。

 

 「もともと選ばれたのが私達なのか、お母さんなのかは分からないけどね。どちらにしてもお母さんの強い想いが十七年前に力を目覚めさせたんだろうけど、自分のお腹の中から思わず力を奪い取ってしまうことは無理じゃなそうだし。」


 僕らはお腹の中で体の一部になっていたわけだから、きっとあり得ない話ではない。命を落としかけている母の状態を考えれば、その余命を悟って僕らに能力を引き継がせたのも特に不思議なことではない。


 「そのどちらかならおそらく前者だ。オレの知る限り、星も干支もゾディアックの年齢には親と子ほど年齢差は見られないし、母親が選ばれたとしたら君たちに力が渡る理由がない。奪われた力の自然回帰と考えた方がいい。」


 杉佐多の経験則を使った推理で神に選ばれたのが僕らである可能性が上がる。

 そうなると、僕らは生まれる前からゾディアックになる運命だったわけだが……今は深く考えないでおこう。


 「じゃあ、それらを踏まえると人類二倍は…… 」


 「あ、あのぉ……ゴメンね杉佐多君。」


 杉佐多が立てようとしたであろうQ3への道筋を突然ある柔らかい声が遮る。


 「話の腰を折るようで悪いんだけど、どうしても気になっちゃって……やっぱり、そういうことなの? 」


 声の主であるアユリさんが申し訳なさそうに何かを確認してくる。


 「どしたの? そういうことって? 」


 隣の彼女がアユリさんの割り込みを聞き返す。


 「いや、さっきから薄々思ってはいたんだけどね。十七年前を年齢から推測したとか、生死の分かれ目次第で時期が変わるかもとかの、今二人が言ったことと、発動者がお母さんっていうのを踏まえたんだけどね。世界二倍の目的って、やっぱり…… 」


 そういうことか。

 どうやら、超常を起こした母の目的を察したらしい。

 だが、察したことで困惑が深まったのであろう。何とも言えない微妙な表情。すぐにも感動の涙を流しそうな目でありながら、すぐさま言葉を失いそうなしそうな驚愕も窺える。

 その大きくも、小さな動機に対してどう反応すればいいのか分からないみたいだ。


 「ああ、ちょうど整理しようと思っていたところだ。それは…… 」


 「いや、そこは僕が言うよ。」

 「いや、そこは私が言うわ。」


 アユリさんの確認に答えようとした杉佐多を僕らは同時に止める。


 「頼んどいて悪いけど、ここは僕らがはっきりと言うべきだろ。“割に合わない”って。」


 「ええ、“ちっぽけなこと”って。」


 「……それも、そうだな。当人以外が告げるには言葉に配慮がいるし、表現が制限されるところだ。ここは任せる。」


 杉佐多に任せた僕らが、任され返される。

 ここでの答えには卑下がいるし、卑下が適切だ。僕ら自身を遜し、僕らの命を遜すべきだ。

 でも、これを他人から口にさせるのは酷だし、おそらく杉佐多は良い人だから多分口にしない。だから、この役目は祇峰フタリ自身が負う以外にはない。


 「さっきも言った通り、元々一つの世界を二倍にしたのは私達のお母さん。」


 「今日までの十七年間世界を巻き込み続け、最終的には人類二倍のパニックまで引き起こした、その超常の目的はたった二つの命のため。」


 「そう、たった二つ。おそらく消える運命にあったその内の一つを救うため。」


 「そして、たった一つの家族をつなぐため。諦めないため。」



 「つまり、二人の祇峰フタリをそれぞれ別の世界で、どちらも生かす。 」

 「つまり、二人の祇峰フタリをそれぞれ別の世界で、どちらも生かす。」



 「それが例え世界中を巻き込んででも叶えたかった母さんの願い。 」


 「それが自分を昏睡状態にしてでも叶えたかったお母さんの願い。 」




 「世界を巻き込むにしてはあまりにも割に合わない、ちっぽけな願いだ。」

 「世界を巻き込むにしてはあまりにも割に合わない、ちっぽけな願いだ。」



 

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