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謎解きの前に angel healing♡

 


 「あっ、説明の前にちょっと待ってね。 」


 早速、謎解きに入ろうとした僕だったが、その直前で六枚羽の黒羽さんに待ったを掛けられる。

 どうしたんだ? せっかくの謎解き展開が台無し……と一瞬思いかけたが、その肩に支えられている人物の状態を考慮できていなかったことに気が付く。


 「チサト、怪我してるから…… 」


 天使の右翼を背にする杉佐多の体には、その三枚の白色とは対照的な赤黒い傷が無数に出来ている。一つ一つは軽傷に見えるが、割合で言えば、僕らの体を覆うヒビと大差ない。十分に彼は重症だ。

 そんな状態の恩人を気遣えなかったなんて思うと、自分の至らなさを恥じるしかない。


 「じゃあ、私の水で…… 」


 「私が治すから、ちょっと待っててねっ♡♡♡ 」


 「え? 」


 満身創痍の杉佐多を見たアユリさんは、自分の出番と言わんばかりに回復能力を有する水瓶を差し出そうとしたのだが、黒羽さんの意外な言葉に遮られる。


 バサッ……


 そして、僕らの視界からも二人の姿が遮られる。

 花嫁大天使が背中の六枚羽で杉佐多を包んだことによって。


 パァァァァ……!!


 「なんか、光ってるな…… 」


 「これまた、すごく綺麗ね。」


 雛を守る親鳥のようなスタイルになった黒羽さんが、その翼の中で白く眩い光を放つ。または元々放っていた光を強くする。

 どちらなのかは姿が見えないから分からない。光の正体も、中でどんなことが行われているのかも全く。

 だから、重なる翼の間から漏れ見える聖なる光に、ただただ見とれるしかない。


 「よーし、終わったよっ!! 」 バサッ


 親鳥と呼ぶには幼気な声と共に、交差されていた翼が一気に左右へ開く。

 そこには、また謎が増えたウェディング・エンジェルと……


 「ああ……助かったよ、コイハル。」


 体中の傷から、服の破れまでが全て元通りになった杉佐多が立っていた。


 「すげぇ、完全に治ってる…… 」

 「すごい、完全に治ってる…… 」

 「すげぇ、完全に治ってる…… 」

 「なんか、完全にカブってる…… 」


 杉佐多の回復を見た僕ら四人は各々驚きの言葉、というよりは感心の言葉を呟く。

 悔しそうに水瓶を抱きしめる眼鏡っ娘以外は。


 「お礼を言うのはこっちっ。チサトが怪我したのは、風から私を庇ってくれたからでしょ♡ やっぱり、チサトも結婚したいってことだよねっ♡♡♡ 」


 まさかの治療能力まで披露した黒羽さんは、翼から解放した杉佐多に求婚ウィンクを飛ばす。


 「だから無理だって言ってるだろ。助けたのは、お前なしだと負けると思っただけだ。」

 

 しかし、杉佐多は容赦ないお断りカウンターを繰り出す。いや、後半の内容的にはツンデレカウンターにも思えるか。

 二人がどんな関係性なのかはよく分からないが、ちょいちょい相思相愛も感じ取れる。本当は付き合ってたりとか?……でも、あそこまで求愛を拒否してるのは不自然か。マジでなんなんだろ、この男女。


 「うぅ……、私の立場がぁ…… 」


 立場とは、いわゆるヒーラーの立場だろうか。

 天使と回復能力が丸被りしたアユリさんの嘆きが聞こえる。お気の毒にって言うべきなのか、コレ?


 「丸被りどころか、ビジュアル的に上位互換だよぉ……、あっちは天使の加護で、こっちはほぼ蛇口だよ……、勝ち目ないよぉ…… 」


 蛇口は自分を下げ過ぎだと思うが、治療速度的にも、戦闘力的にも天使の下位互換と言うのは否定しきれない。

 何に勝ち目を見出したいのかは知らないけれど、あの神々しい天使にスペック勝負を挑むとなれば、相手が悪すぎるんじゃないか。


 「ん? 今まで気づかなかったけど、その壺みたいなのと黒い剣、それにこの気配……もしかして、そこの二人もゾディアックっ!!

 黒羽さんがアユリさんの抱える水瓶とオサムが持つ黒剣の存在に気付き、今の二人の肩書にも気が付く。


 「青い壺に、ハサミの様な剣……水瓶座と蟹座か。」


 杉佐多はギアの形から星座の種類にまで。


 「すごいっ!! すごいっ!! 今日だけで三つも星座を見つけちゃったよっ!!!! 」


 アユリさんとオサムの覚醒を、バイザイしながら飛び上がって歓喜に舞う花嫁大天使。

 やっぱり、星のゾディアック集めもこの二人の目的らしい。

 そうだとすると、僕ら四人組によって見つかった星座は黄道十二宮のうち三つ。彼らにとって、この出会いが一気に25パーセントの成果になると思えば、あの羽を振り撒く美しき喜び様も不思議なものではない。


 「なになに? 攻守回復が出来る水と、結界も切り裂く剣付きの鎧って? 二倍とか未来予知もそうだけど、またまた意味分かんない能力ですごいねっ!!!! 」


 あなたのドレスが一番意味分かんないですけどね。ほんの数十分会わない間に、メチャクチャな進化してるし。


 「私? 私の能力は普通だよ? 能力名はね、“ヴァルゴ・エモーショナル”って言うの。」


 ずっと気になっていた乙女座の能力名が遂に明かされる。

 名前が明かされただけで、何も明かされてないが。


 「エモーショナルって……感情? 」


 そう。隣の彼女が言う通り、エモーショナルは感情。つまり、能力名を直訳すると“乙女座の感情”……

 ますます意味不明だ。

 僕らの二倍を可能とする“ジェミニック・トゥワイス”とは違い、名前が直接的でない。少なくとも、エモーショナルに敵を一撃で気絶させる超パワーや、翼による飛行や、怪我の回復なんて意味は含まれない。その全部を実現する万能性も、もちろん。


 「えーっと、つまり……どういう意味なのかな、コイハルちゃん? 」


 隣の彼女が説明し終えたような顔の黒羽さんに問う。


 「簡単だよ? 強くなりたいって思えば強くなるし、飛びたいって思えば翼が生えるし、治したいって思えば治せるの。」


 「……は? 」

 「……は? 」

 「……は? 」

 「……は? 」


 あまりのチート発言を聞いて、僕ら四人は一斉に聞き返す。


 「うーんとね、簡単に言うと、私が思ったことがなんでも出来る。それが私の能力ってこと!! 何故かたまに失敗するけどね。」


 「……は??? 」

 「……は??? 」

 「……は??? 」

 「……は??? 」


 分かりやすくまとめられた能力説明だったが、僕らはまたより強く聞き返してしまう。

 アユリさんの上位互換どころじゃなかった。

 その内容を鵜吞みにすれば、僕らの二倍も、オサムの次元斬りまでも、想像だけで再現できるということ。

 つまりは、僕ら全員の上位互換だったのだから。


 「きっと、そんな単純な能力じゃないんだろうけどな…… 」ボソッ


 「ん? チサト、なんか言った? 」


 「……別に。」 


 「そう? じゃあ、チサトの怪我も治ったし、謎解きお願いしようかな? 」


 「あ、ああ…… 」


 なんだか僕らのバグで生まれた無限トゥワイスでさえ、低スペックに感じる能力だったけれど、そんな努力の仕様がないところで落胆している場合ではなかった。

 この天使から衝撃を与えられたばかりだけれど、今度は僕の番だ。僕がこの世界の真実を伝え、きっと他の四人に衝撃を与える。

 これから始めるそんな謎解きによって、この人類二倍の超常劇に幕を下ろそう。


 「そうだったな。じゃあ、始めるか。」


 この世界の終末と共に。

 


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