鴉根オサム love of 双凛
「お、祇峰さん、薄明さん、おっはよぅ。」
私たちは校門前で、クラスメイトの鴉根 理くんに挨拶をされた。
まずアユリが挨拶を返し、私も後から
「おはよっ。鴉根くん。」
と、さっきの反省も生かしていつも通り普通に返した……はずだったのだけれど、
「ん? またお母さんか?」
「ブフッ!?」
まさかの本日2回目の即行異常的中が待っていた。
なんで? 私の思考、ネットニュースか何かで公開されてんの?
そんなもしあり得ようモンなら過去現在未来が恐怖で埋め尽くされるような疑念を持ち始めると、突然耳元で
「私に言いにくいなら、鴉根くんならどう? 告白ついでに相談しちゃえば? 」
「ブフッ!? 」
アユリからの不意打ち囁きににまたも吹き出してしまった。このオールドリアクションを何回繰り返せばいいんだろ?今日は。
「ハ、ハァ!? いきなり何を言い出すのよ! なんで私が…… って、あれ? アユリは? 」
アユリのタイミングと優先順位がいろいろおかしい内容に取り乱しながらも反論していたのだが、何故かそこに彼女の姿はなかった。
「薄明さんなら別の子の集団入って、一緒に歩いってたぞ。知り合いでもいたのかな?」
「え? ウッソ!? この一瞬で!? 」
とオサムくんから見逃したアユリの行動を聞いて前方をチェックすると確かにヤツの後ろ姿が見える。
……あのバカ、諮りやがったわね。
見たところ、あの子の近くに知り合いっぽい同級生や水泳部の先輩とかはいなかったし、誰かと喋ってる様子もなかった。
多分それっぽい女子集団の中に紛れていったのだろう、私とオサムくんを二人きりにするために。
もう!あのメガネっ娘いつの間にマスコットから策士に転職したのよ?
なんかこっちに気付いてウインク繰り返してるし。え? ガンバレってか? 朝っぱら告白しろってか?
完全に確信犯ね。後で覚えてなさいよ。
とりあえず復讐を誓った私は
「あー、そ、そうみたいだねぇ〜。まったく、あの子の気まぐれには困っちゃうねぇ〜。アハハ。」
と、アユリの余計なお世話大作戦を彼に悟られるのはマズいので適当に誤魔化し、
「あと、お母さんのことは大丈夫だよ。いつもの体調不良っぽいから、多分……大丈夫っ。」
と、続けて最初のオサムくんの質問にうまく嘘で答えたつもりだったのだが、なんというか、やっぱりというか、もう明らかに信じて無いのが彼の表情から分かる。
「うーん。ま、無理に言わなくてもいいけどさ、困ったらいつでもいってくれよな。」
納得してはくれてないっぽいけど、気を遣ってか深くは触れてこなかった。
さっきもアユリとおんなじことやったきもするけれど、こういう優しさにきっと私は惹かれてるんだろうなと改めて思う。
ちなみにあのお節介メガネのせいでとっくに気付かれてる気もするけれど、私は鴉根理に恋愛的に好意を抱いている。
オサムくんもアユリ同様小学校からの同級生であり、そのいつからだったかはもう覚えていないけど、もうずっと彼に恋心を実らせている。
だから、それをアユリに気付かれてからずっとさっきみたいに告白を薦められてるけど、もし失敗して今まで築いてきた親友関係を壊したくはない。
まぁ、イケメンスポーツ少年というポテンシャルで学校イチの絶大な人気を誇る割には何故か彼女もいない様子なので成功可能性が無いわけではなさそうだけど、そんな相手だけに自信が無い。
なので結局アユノ達と一緒に長い事、無難に友達してる。
ただ、親友としても、想い人としても、やっぱり母のことを相談して迷惑かけたくはない。
それぐらい重い内容のはずだ。
「ありがと、ホントにヤバくなったら頼らせてもらうね。」
そう言って私は微妙な表情のオサムくんに申し訳なさを覚えつつ、憎っくきアユリの文句へと話題をシフトチェンジして生徒玄関へと向かった。
いろいろあったちゃあったけど、学校には普通に行けていて、友達ともちゃんと喋れていたことを総合するといつも通りの朝を過ごせたこと。
そして母親が大変な時なのに、今の私の心の中では心配以上に罪悪感が占めていること。
そんなことを思うたびに新しい罪悪感が出来上がり続けて、結局深くブルーな気分のままこの1日を過ごした。