奇跡と世界の創造者 connect フタリ
「いってぇ……、おい疾駆大丈夫か? 」
『大丈夫じゃないっ!! オレの顔にこんなシャレにならん大傷つけやがって…… 』
戦いを決心した僕たちの向かいで、オサムに吹き飛ばされた敵が立ち上がり始める。
その鎧姿の胸には真一文字に大きな傷がつけられており、中央の午の顔がそれを嘆いているみたいだ。
「それは帰ったらアイツに治して貰えよ。今はとにかく幽霊退治だ。ぐふっ……神装もそろそろヤバそうだしな。」 ジャキン
三人がかりで跳ね返した槍をその使い手が拾い上げて、こちらに向けてくる。
てか、誰が幽霊だ。僕か? さっきまで腹に穴開けてた僕のことか?
「せっかく復活したのに、また二人揃ってのこのこ死にに来るとはなぁ? まぁ、お前にも散々やられたから借りを返し切るにはいい機会だ。今度こそぶっ殺しだっ!! 」
僕らはとりあえず今を生き残りさえできれば戦いなんて御免なのだが、敵のやる気というか殺る気が衰えてくれる様子はない。アイツだって十分僕らに痛めつけられたはずなんだから、そろそろ心が折れてくれても……
「ねぇ……? 」
「ん? 」
隣で敵に相対する彼女が小さな声を掛けてくる。
「本当に大丈夫なんだよね……? 」
「お前さっき僕を信じる的なこと言ってたじゃん。」
「一応、信じてるけど……不安はどうしても残るもの。」
「心配なのは分かるが大丈夫、さっき伝えた作戦はうまくいく。現にこれにまでヒビが入り始めてるのがより証拠に…… 」
「それは分かってるわよっ。実際の効果を目の当たりにしてるし……不安なのは消滅の方。」
彼女はヒビだらけになった自分の腕を見ながら、ヒビだらけの表情を曇らせる。
僕らの消滅の進行は消えた部屋の物と比べれば明らかに遅く、消え切るまでには一定の猶予がまだあるように思う。だが、それは何分台のレベルの話であり、着実に体は消滅現象に包まれていってしまう。
最初は腕のみだった彼女のヒビ割れも、顔は首元から頬まで。スカートから見える足は膝から。腕は制服や腕時計、そして双子座のグローブを含めて二の腕あたりまで伸びている。自分では見えない部分もあるが僕も同じような状態のはずだ。
「それにお互いを犠牲にして生き残ってるっていう事実を吹っ切ろうにも、心につっかえちゃって…… 」
「そんな僕らが生き残っていいのかって思ってるのか? それはもういいだろ。お互い様ってことだし、アユリさんとオサムにも生きるって約束したし。」
「そりゃ、アユリ達の前だったから勢いで張り切った……でも、あなたと二人だとどうしても罪悪感がね。ひどいよね? こんな考え方はあなたにも死ねって言ってるようなものなのに、せっかくあなた達に救われた命なのに…… 」
そうか。
彼女はまだこの世界の真実を知らない。
祇峰フタリの真実を途中までしか知らない。
だから、彼女はまだ思い悩んでしまう。自分の命を罪としてしまう。
そこから救い出してやるには、やはり僕の気付いた真実を伝える必要がある。
でも、今はこれをイチから説明している時間はない。戦いに赴かなければならない。
ならば、今僕が伝えるべきことは……
「だったら、勝って生き残れ。」
「え……? 」
「もし、僕らの命がお互いの犠牲の上に成り立っているとしても、僕らはお互いこうして生きている。その場所が違う世界だったとしても、今こうして出会えている。本来ならあり得ない奇跡。でも、こんな奇跡の中で二人ともがこの融合世界で生き残ったらどういうことになると思う? 」
「あっ……、まさか……!! 」
「この奇跡の中で僕たちフタリが全てを乗り越え、二人揃って生き残る。それが…… 」
そう。それがこの全ての奇跡を仕組み、僕らの命をつないでくれた……
「……この世界を創った、母さんの願いだ。」