繋ぐ一太刀 last slash
ズガァ!! グシャ!!!!
「ぐぅっ……!!? 」
ズサアアアアアアアアア……!!
「チッ、これも防ぐのかよ。」
敵の回し蹴りの餌食になりそうな俺の首だったが、そこは左腕の籠手を盾にして致命傷を回避する。
我ながら自分の反射神経に感心したいところだが、
「絶対、折れたっ…… ってか、砕けたのかコレ……? 」
神の防具越しでも粉砕骨折してしまう腕の耐久性を差し引いてプラマイゼロ。いや、むしろマイナスだな。超イテぇ……!!
「ハハハハハッ!! だが、やっと一撃入ったみたいだぜっ!!!! 」
敵は結界の壁際まで吹き飛ばされた俺の大怪我を見て、達成感に浸っている。相対している敵のの負傷を喜ぶのは当たり前なのだろうが、あの甲高い笑い声を聞くとなかなか腹立つ。
「さぁて、やっと勝利のトドメだ。」ザッ、ザッ、ザッ
ただぶら下がってるだけとなった左腕の痛みで膝をつきそうな俺に鎧の敵が迫ってくる。
こんな状態じゃまともに戦えないし、ここから動くこと自体ままならない。そもそも武器がないから、反撃できない。
……とアイツは思い込んでるはずだ。
「ったく、甲羅みたいな鎧と言い、ハサミの剣と言い、ただの蟹ごときにこんな苦労するとはなぁ。 」
油断してる。終わったつもりでいる。これなら……
「ハァ、ハァ……馬鹿の癖に蟹の特徴はちゃんと知ってるんだな。」
考えのある俺は挑発しながら、体力の限界を見せて敵の接近を待つ。
「ナメてんのか? 俺だって、見たことも食ったこともあるんだぞっ!!? カニカマとか、カニ型のパンとか。」
それ、どっちも蟹じゃねぇけど?
「それにこれも知ってるぜ? ハサミのない蟹は無力だろ?」 ジャキン
倒れかけの俺の目の前に槍先を突き付けられる。
既に二人の距離は敵にとっての攻撃範囲……そして、俺にとっても最後の攻撃範囲だ。
「……なら、これも知ってるよな? 」
俺は問いかけと共に左の腰当てから出ているグリップに、まだ使える右手を添える。
「は? 」
「蟹のハサミは…… 」
ギュイン
「二本だっ!! 」
「なっ、もう一本だとっ!!? 」
この剣の正式名はツインキャンスラッシャー。
文字通りの二本ワンセットで、その一本はさっき落とした長剣。今顕現させたもう一本は、これまたハサミモチーフでリーチは劣るが軽めの短剣だ。
「ディメンショナル・キャンスラッシュっ!!!! 」 ズバァッ!!!!
完全に油断していた敵の隙をついた俺は右上に向けて隠していた短剣を振り上げる。
その一太刀は午の顔がある胸に直撃し、敵の体を後ろに吹き飛ばす。
バリィンッ!!!!
「ぐあっ……!!? 」
『イッテぇっ!!!! 』
「くっ……、傷だけかよ。」
ディメンショナル・キャンスラッシュ。
それは次元すら切り裂く最強技……のはずなのに、鎧に真一文字の傷をつけただけで留まってしまう。
いや、足の鎧を砕けなかったことから、敵の体に届くとは最初から思っていない。でも、鎧だけは機能を失わせるくらいまで粉々に砕くつもりの一撃だった。それに比べれば成果が予想を下回り、鎧の強度が遙かに上回ってしまっている。
しかも、アイツは後ろに吹っ飛び切る前に……
「クッソ!! 何度もトドメを逃すかっ!!!! 」ブンッ!!
「なっ……!!? 」
槍をぶん投げてきやがった。
左腕の機能を失い、右腕で攻撃し終えて間もない俺にそれを防ぐ術も避ける体力もない。
「ここまでかよ、チクショ…… 」
「させないっ!! 」
「させないっ!! 」
「させないよっ!! 」
死を覚悟した俺の前に突然三つの影が現れる。この結界にいる三人と言えば……
「っ!! お前ら……!!? 」
二人のフタリと薄明さんだ。
「お願い守ってっ!! プロテクト・アクアっ!! 」 キュイーーーン!!!!
薄明さんが両手を前に出すと同時に、左右の壺の口からレンズのような透明バリアが展開される。
「ジェミニック・トゥワイスっ!! 」
「ジェミニック・トゥワイスっ!! 」
フタリさんたちは薄明さんの肩に手を置いて、技名のようなものを叫ぶ。フタリの能力なのかは分からないが、その言葉に呼応してバリアが分厚く大きくなっていき、飛んできた槍の凶刃から俺を守ってくれている。
「はああああああああああああ!! 」
「はああああああああああああ!! 」
「はああああああああああああ!! 」
ビジジジジジジジジジジジジジジッ……バチンッ!!
「やった!! 守れたっ!! 」
「強度を倍にしたのに危なかったわね…… 」
三人がかりの異能防御によって、飛び道具と化した槍は持ち主の方へと弾き返される。おかげで、俺の命は事なきを得た。
「す、すまない。三人とも、ありがとう。」
「あーあ、あれだけ警告したのに鎧を着られやがって。途中までめちゃくちゃ有利で感心してたのにな。」
「それは……聞かないでくれ。バカバカしくて、泣きたくなるから。」
フタリに痛いところを突かれた俺は左腕を青くして、追い詰められている現状を嘆く。ん? ていうか、この二人怪我してたよな?
「ああ、そうか。薄明さんの水で無事に治っ…… 」
ビシビシビシビシビシビシッ…………!!
ビシビシビシビシビシビシッ…………!!
俺はフタリ達の回復に安堵する前に、その姿と謎の亀裂音に驚愕する。
「ふ、二人ともっ……!!? 」
確かにフタリの腹の大きな穴は綺麗さっぱり無くなっていた。
フタリさんの体中の擦り傷や痣は一つも見えなくなっていた。
再会した時のボロボロな二人はどこにもいなかった。
だが、その代わりに……
「悪いな、残された時間はあんまりないんだ。」
「ゴメン、残された時間はあんまりないんだ。」
二人のフタリの顔と体中には、謎のヒビ割れが生まれ始めていた。
まるで、跡形もなく割れ消えてしまうガラスの様な運命を暗示して……