蟹装 versus 馬装
「な、なんで……? あの口上が必要なんじゃ……? 」
何の前触れもなくいきなり鎧状態に変身してしまった敵。
その防ぎ続けたはずの姿を目の当たりにした俺は理由も分からず、ただただ驚愕する。
『ハハハハハハハッ!! 残念だったなっ!! 実は神器神装に必要なキーワードは “神装” のみっ!! 』
「なっ……!!? 」
じゃあ、さっき馬鹿谷が呟いた “神装” の一言がきっかけに……
『その通りっ!! しかし、それをわざわざ許すとは馬鹿なや…… 』
ジャキンッ
「おい、疾駆どういうことだ……!? 」
敵が自分の喋る胸飾りに装飾のなくなった槍先を突き付ける。
一見、ただの自傷行為のモーションにしか見えないが目的は違うっぽい。
『え……? ヤマトくぅん……? どうしたの、顔怖いよ……? 刺さりそうなんだけど……? ていうか、ちょっと刺さってるんだけど……? 』
「どうしたのじゃねぇ……!! お前、俺様があの長い台詞憶えるのにどれだけ苦労したと思ってんだ……!? しかも、あんな恥ずかしい中二臭さの……!! なのに…… 」
どうやら、自分の武器の隠し設定にお怒りの様子だ。(覚えられないって程の長さでもなかった気もするけど。)
「あの台詞のほとんどが必要なかっただぁ……!? どういう意味教えてもらおうか……!!! 」
ものすごい剣幕。相当頭にキテるらしい。
『だって、神様であるオレを纏うんだぜ? 今は緊急事態ってことで許したが、四文字だけじゃ神聖な雰囲気が…… 』
なるほど。それっぽい雰囲気を演出するための台詞を持ち主に言わせてたってわけか。
その企みが一番神から遠ざかってるように思えるが。
「お前それだけのために……、いくら相棒とは言え、許さ……ゴホッ!! ゲハッ!!? 」
自分の胸に槍を突き刺そうとした馬鹿は、急にただ事じゃなさそうな咳き込みを始める。
『ヤ、ヤマト、そんなことより早くしようぜ。やっぱり、神装状態で長くい続けるのは危険だ。』
「はぁ……チッ、話逸らすなと言いたいところだが、流石に戦い優先だな。でも、帰ったら覚えとけよ……!! 」
ジャキン!!
「っ……!! 」
さて、向けられた槍先を合図にそろそろ現実に目を向けよう……絶対にヤバい。あの姿と輝きは明らかに強者の証。その光景を実際に見たわけではないが、自ずと理解できる。
「というわけで、いろいろあったが神装完了……さぁ、今まで受けた傷の分、しっかり返させてもらうぜっ!! 」
あれがフタリさんたちを追い詰めた最強の姿だ。
「くっ、戦うしかないか…… 」
カシャッ……
鎧の装着を許してしまった俺は腹をくくって、右手の剣を構える。
さっきまでの有利が噓みたいに思える緊張感……、あんなくだらないやり取りする前にトドメを指すべきだった。俺にも敵に負けない大馬鹿野郎のレッテルが張られたことだろうが、文句は言えない。
「さぁ、行くぞっ!! 」シュン……!!
消え……いや、違うっ!!
バキッ!!!!
「へぇ……やっぱ、凄まじい勘だな。」
一度は敵の姿を見失った俺だったが、飛んできた拳を感じ取り、ギリギリのところで左の籠手を使って受けきる。
「うっ……!! 」
だが、籠手越しなのにすごい衝撃。左腕に痺れが残る。
こんなとんでもない攻撃がずっと続くとなれば、どう考えても耐えきれない。ならここは……
「これならどうだっ!! 疾蹴っ!!!! 」ブンッ!!
またも目にも止まらぬ超スピード攻撃……だが、俺は僅かに敵の左足が後ろに引かれたのを見逃さなかった。
「……っ!! 今だっ!! キャンスラッシャー!!!! 」ガチャッ!!
「なにっ……!!? 」
ガキンッ!!!! シュゥ……
「ハッ……、まさかこれも受け止めるとはな。」
敵の左足が繰り出されることを見抜いた俺はその蹴りの動きを一瞬で予測し、その軌道上に蟹座の剣を置くことに成功。
そして、予想通りの弧を描いた敵の足は俺の剣に……
「まるで蟹のハサミだなっ……!! 」
挟み込まれた。
「まぁ、蟹座だしな……」
俺の右手にある蟹座の黒剣。
その中央には縦にギザギザの裂け目が入っており、柄の少し上には鍔の代わりに丸いヒンジが配置。そして、握り手にあるトリガー……お察しの通り、これはもうハサミの様に開くとしか考えられない。