お約束 break
「午の神よっ……!!? 」
ドカッ!!
「午のかっ……!!? 」
バコッ!!
「午のっ……!!? 」
グシャッ!!
「うまっ……!!? 」
バキッ!!
「うっ……!!? 」
ドゴッ!!
「いや、ちょっ……!!? 」
ズガッ!!
「だから、ちょまっ……!!? 」
ドガァンッ!!!!
「だから、ちょっと待てやあああああああああああああああああああああああああああ!!!!! 」
『だから、ちょっと待てやあああああああああああああああああああああああああああ!!!!! 』
俺のせいで体中ボロボロな敵とその槍のあまりに必死な叫びを聞いて、一旦攻撃の手を緩める。
「……なんだよ? 」
「なんだよじゃねぇよ!? なんで俺様の台詞中に攻撃してくんだよっ!!? 」
「その神器神装とやらをされたくないから。」
それ言い終わらせたら、ハチャメチャに強いと言われる鎧状態になっちまうんだろ?
なら、止めるに決まってる。
「一瞬の変身邪魔すべからずって言葉知らねぇのか!!!? 」
知るかっ、そんなご都合ことわざ。
元ネタは何だ? 一寸の光陰か? だとしたら全く意味違うぞ、毎度の如く。
『そうじゃなくても、変身の為の口上ってのは分かるだろうがっ!! ヒーローの変身中は攻撃禁止っ!! これが人間のお約束だろっ!!!? 』
午モチーフの槍に人間のお約束語られても困る。第一、お前らヒーローじゃないし。敵だし。秘密結社だし。
「そもそも、そんなお約束古いんだよ。俺が見てた頃のヒーロー、普通に変身中攻撃されてたぞ? 」
「えっ? そうなの? 」
『えっ? そうなの? 」
「そうだよ。でも、そんな中で攻撃を避けながら変身したり、変身のエフェクトが攻撃から守ってくれたりするのがアツいんだろうが。番組都合と変身バンクに頼り切りのお前らのヒーロー像は遅れてるんだよ。」
殺し合いの雰囲気出されまくっといて、第四の壁に配慮なんてするわけない。
「そ、そんな時代なのか…… 」
『そ、そんな時代なのか…… 』
納得された。自分で教えといてなんだが、俺は敵に何の授業をしてるのだろうか。
昔のことを思い出してみると意外とテンションがノッてきてしまう。どうせなら、もうちょっと続けるか。
「だいたい、変身のための口上が長すぎるんだよ。“午の神よ…… ” のあとにも大分続くんだろ? 」
「あ、ああ、こんな感じだ。午の神よ、その疾風のごとく大地を駆ける速さを我が身に。 馬神槍 疾駆……今だ!! 神器し…… 」
「今だ、じゃないっ。」
ドカッ!!
「ぐはっ!!? 」
どさくさに紛れて変身しようとした馬鹿の脇腹に剣の側面を叩きつける。
俺も流石にコイツほど馬鹿じゃないと自負出来るので、そんな手は通じないし、油断もしない。
「ほら、そんな長い台詞じゃすぐ止められるだろ? 神の槍だからか知らないけど、雰囲気だけ無駄にいっちょ前な言葉を必要にしてるようじゃ、変身できるものも変身できないぞ。もっとこうスマートにいかないと。」
「ぐふっ……た、例えば……? 」
「そうだな……例えば、 “変身っ!! ” ぐらいに一言で済ませた方がいいだろ。それなら、邪魔なんてする暇ないぞ。なんせたったの一言だ。」
なんか謎の決め台詞講座に入ってしまった。
変身機能も経験もないのに何様だって感じだが、敵も意外とノッて来てくれるので、口がどんどん進んでしまう。別にどちらの利にも損にもにも成らないであろうアドバイスだし、敵ももうボロボロだから問題ないが。
「だから、神器神装なら……“ 神装っ!! ” って感じで、シンプルでいいと思うぞ。」
「な、なるほど。確かに、神装っ!!!!……の方が言い易くて便利だなっ!! 出来るならそっちの方が…… 」
「そうだろ? まぁ、その長い口上が変身に必要不可欠なものなんだろうから、こんなこと言ってても仕方な…… 」
ガシャガシャガシャガシャガシャン……バシュシュシュン!!
「えっ? 」
「えっ? 」
ガシャン!
ガシャン!
ガシャン……ガシャガシャガシャガシャガシャン!!!!!!
「えっ?? えっ??? 」
「えっ?? えっ??? 」
ピカァーーーーーーーーーーーーー!!!!
突然敵の持っていた槍から装飾がバラバラに外れて宙を浮きだしたと思えば、それが鎧サイズに巨大化。一気に持ち主の手足胴体に装着され、緑に輝く午の鎧戦士が誕生してしまう。相手自身も想定外の表情を見せているが、まさかコレが……
『ヤマト、神装完了だ。』
「えええええええええええええええええええええええええええええっ!!!!!!!? 」
「えええええええええええええええええええええええええええええっ!!!!!!!? 」