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友情 reboot

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 「あー、それは……秘密だ。」

 「あー、それは……秘密っ。」


 「えぇっ……? 二人共教えてくれねぇの?」


 力の入手経路の問いに何故か答えてくれない二人。

 なんでだ? 別にやましいことしても手に入れられる物じゃないから、秘密にすることないと思うんだが。


 「ぐすっ……なんでもいいよ。憶えてるならなんでもいいよ。」


 真上にある彼女の顔を見上げる。やっぱり、もう泣き出しそうだ。


 「思い出してくれないと思ってたから……、イチからやり直しだと思ってたから……ホントに……、ホントに……!! 」ポタッ、ポタッ……


 また大粒の涙が僕の頬に落ちてくる。だが、この涙は死にかけの僕を見た時とは違う。ただの嬉し涙だ。

 黒羽さんの時と同じで、きっと今からどちらかに抱き着くんだろうが、ちょっと待とうか。その前に抱えてる僕をゆっくり下ろし……


 「うぅ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!! 」 ギュウッ!!


 ……てくれなかった。涙が堪え着なくなった瞬間に彼女はアユリさんの腰に飛びついて、泣き声を上げる。


 ガンッ!!


 「イッタっ!! 頭撃った…… 」


 代わりに抱えていた僕をアスファルトに叩きつけて。


 「フフッ、痛いよフタリちゃん……、でもゴメンね…… 」


 アユリさんは僕の傷口に右手をかざしたままで、左手で腰に抱き着く彼女の頭をなでる。そしてまたアユリさんの目にも涙の光が見え始める。


 「私たちを守るために別人のフリしたり、結界から追い出したり……、辛かったよね……? 苦しかったよね……? ずっとそんな思いさせちゃって、本当にゴメンね……。 本当に、本当に、うぅ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!! 」


 僕の目の前で二人の少女は号泣を始める。

 たった数時間の忘却でも、僕らは心に大きな傷を負い、その傷が癒え切らぬ間に大きな決断をした。理不尽な運命に悔し涙を何度も飲んだ。

 だが、そんな中だからこそ忘却の運命を覆し、苦しみを理解してくれる存在が現れたことは僕らの心に大きな衝撃と感動を与えてくれた。本来なら、自分の中にある嬉し涙を全て涸らせるくらいには確実に。


 「ほらフタリ、お前も泣いていいんだぞ? 胸貸してやろうか? 」


 謎の長剣を担いだオサムがからかい気味に僕の号泣を促す。


 「黙れ。お前に関しては腐れ縁が本当に腐り落ちただけだからな。わざわざお前で泣く要素なんてない。」


 「強がりにしてもひどくね? 俺が泣くぞ。」


 「僕がお前の目の前で素直に泣くわけないだろ? それに…… 」 チラッ


 僕は言葉を続ける前にアユリさんと共に二重の泣き声を上げる彼女の方を見る。


 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!! 」

 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!! 」


 僕だって泣けないわけじゃない。彼女と同じように僕も傷ついたし、苦しんだ。そして、その分この親友二人の出現に大きな感動を抱いた。

 でも、あんな姿を見せられたら僕の涙は……


 「泣きじゃくる妹の前で、兄貴が泣けるかよ。」


 兄としての本能によって、外に流れ出る直前で塞き止められる。


 「あれ? お前妹なんていたっけ? 」


 まだ僕ら祇峰フタリを同じ人間であると思っているオサムは僕の台詞に疑問を抱く。


 「僕もさっき知ったところでな……今泣いてるアイツだ。」


 「ぐす……えっ!!? 私っ!!? 」


 アユリさん違います。その腰にいる奴です。

 あなたと血縁関係があるのはいろいろマズいし、もしそれが真実ならば、あなたに恋する僕はとっくに体の水分全てを涙に変換してます。


 「はっ!? お前らマジで兄妹だったのっ!!? 確かにそんな雰囲気はあったけど、パラレルワールドの自分同士だったんじゃ…… 」


 「ああ、実は僕らは双子で、このせか……ゴホッ、ゴホッ!! 」 バタッ


 起き上がって人類二倍の真実を説明しようとした僕だったが、腹の傷が疼いて再び倒れこむ。


 「まだ動いちゃダメだよ、フタリくんっ!! まだ傷塞がってないんだから!! 気になるけど話はあとで聞くねっ。」


 ビシャアアアアアア……


 僕を大人しくさせたアユリさんは、僕の傷に手をかざしたままで宙に浮く二つの壺から謎の水を流し続ける。


 「……それどころじゃなかったからスルーしてたけど、アユリさん? その水は何? 」


 水なのに染みないし、濡れもしていない。それどころか徐々に僕の傷を小さくしていき、死期をさまよい消耗しきっていた体力まで回復していく。しかも、そのサイズを見るにその容量以上の水を既に流し切っているはずなのだが、尽きる様子がなく無尽蔵としか考えられない。


 「あっ、そういえばまだ言ってなかったね。これが水瓶座のゾディアックギア、アクエリアス・ビット。私もまだ大まかに説明されただけで、詳しくは知らないんだけど、この二つの水瓶からいろいろな能力の水を作って操れるらしいの。」


 二つの壺に、水を操る黄道神能……如何にも水瓶座って感じだ。


 「そして、今フタリくんに浴びせてるのは“癒しの水”。患部に浴びせれば傷とか体力の回復が出来るんだって。でも、まだ使い慣れてないせいで、完治までに時間は掛かっちゃうみたいなんだけど…… 」


 最後の完治時間を申し訳なさそうに自分の能力を説明するアユリさんだったが、死から救ってくれただけで十分偉業である。


 「ありがとうアユリさん……感謝してもしきれない命の恩人になっちゃったな。」


 「フフッ……それはお互いさま。 不思議な力で槍使いから守ってくれたのはフタリくんが先でしょ? 」


 「ああ、そうだったね…… 」


 僕は自分からお互い様を言い出したことを思い出……


 − 僕は薄明アユリをずっと守り続けたい……そう願ってるから君を守ったんだ  −


 「あっ…… 」

 「あっ…… 」


 カアアアアア……!

 カアアアアア……!


 あることを思い出した僕たちは見つめ合って急激に顔を赤くし合う。


 「…… 」

 「…… 」


 「………… 」

 「………… 」


 「アハッ、ハハ、ハッ…… 」 ニッコリッ

 「アハッ、ハハ、ハッ…… 」 ニッコリッ



 やばい……!! 超絶気まずいっ!!!!



 「ぐすっ……ん? 二人ともどうしたの……? 変な笑い合いして。」


 アユリさんの腰で泣き止んだ妹がぎこちなく微笑み合う僕らの間に、疑問を投げ入れてくれる。


 「そ、そういえば、コイツもボロボロだから回復してやってくれないか……? 」


 この空気に耐えられなくなった僕は間に入ってきた彼女を利用して逃げるように話を逸らす。実際、コイツも大きな必殺技喰らってるし。


 「そ、そだねっ!! ほ、ほら水出すから、フタリちゃん手を出し…… 」




 ブンッ!! ガキンッ……!!!!


 


 「えっ!!? 」

 「えっ!!? 」

 「えっ!!? 水瓶が……消えた?」


 妹の手に水を出そうとしていた方の水瓶が突然目の前から姿を消す。アユリさんも驚いているあたり、予期せぬ動作らしい。

 いや、正確には横から来た猛スピードの何かに弾かれたような感じだったか? それなら消えたんじゃなくて……


 「上か……? 」


 「あっ、ホントだ上にあるっ!! でも私の水瓶がなんで……? 」


 予想通り、消えた水瓶は結界の黄色空に浮いてた。弾かれたにしては壊れている様子もない。弾かれたっていうのは勘違いで、単なるアユリさんの操作ミスだろうか?

 上空に浮く水瓶はそのまま放物線を描いて、僕らの反対側に……って、待てよっ!! あそこには確かっ……!!!!


 「アユリさんっ!! 早くアレをこっちに引き戻してっ!!!! 」


 「う、うん……!! 戻っ……あれ? どうやって戻すんだろ? 」


 「えええっ!!? 知らないのっ!!? 」


 「だって急いでたから、細かい説明はまた今度って頭の中で神様が…… 」


 「ったく、双子座以外の神も適当なのかよ……って、言ってる間にっ!! 」


 ビシャアアアアアアアアッ!!


 宙を浮いていた水瓶はその口を逆さにして、僕らのと反対の壁際に中身をぶちまける。

 マズい。あそこにいるのは僕が腹に大穴を開けながらも、地面に叩きつけた相手。そう、あの……

 


 

 「鹿谷ヤマトぉ……再びふっかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁつ!!!! 」




 僕らを絶望的状況に陥れた槍使い。行動不能になったはずの馬鹿戦士が、癒しの水を浴びることによって復活してしまった。


 

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