希望から絶望へ、絶望から希望へ don't forsake a friend
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「うわああああああああああああああああん!!フタリぃ……!!!! 」
私を敵から守り、腕の中で目を閉じた実の双子の兄。
ただひとり残された妹はこの惨状にただひたすらに泣き喚く。
昨日の夕方まで、その存在すら知らなかった。
出会ってから、一日もない付き合いだった。
くだらない口喧嘩が半分を占めていた。
ずっと自分同士だと思っていた。
兄だなんて思いもしなかった。
最後まで変態だった。
でも……楽しかった。
別にオサム君やアユリみたいな友達といるような楽しさではなかったし、あの二人にある私の惹かれるものを何も持ち合わせていなかったような気もする。
だけど、親友達にはない何かがあった。言葉には表せないけど、それがある彼との会話は新鮮でアホらしくて全く飽きなかった。
だから、別れを察したときは寂しかった。その時はまだもう一人の自分だと思いこんでいたにも拘わらず、同じ世界にいて欲しいって感じた。そんな理想が心の奥で芽生え始めていた。
既にそれと同じ芽を摘み取った過去があったとは知らずに……
これは理想なんかじゃなかった。当たり前の毎日に存在したはずだった。二人揃って双子として生まれていたなら、ただの日常だったのだ。
私たちとお母さんに何があったのかは分からない。
生まれてこれただけでも、幸せと思うべきかもしれない。
でも、そのために彼と理想というべき日常が犠牲になったのだとすれば私は自分の存在を……否定したくなる。生まれたことを過ちと思ってしまう。
そして、私はその過ちと同じことを繰り返してしまった。また兄を犠牲に私が生き残った。自分の理想を再び自分で壊したのだ……
「せっかく会えたのに、こんなのって…… 」
言い訳にしかならないと思うけど、私たちを取り巻く運命がそもそもおかしい。
片方の世界で双子の片方を失っていた。
知らぬ間にそれを踏み台にして生きていた。
それでも謎の頂上によって奇跡的に出会えた。
なのに今度は思い出の消失と存在の消滅が待っていた。
それでも回避方法があると知って抗おうとした。
だけど意味の分からない敵に妨害された。
それでも私たちは生きるために戦った。
結局、双子の兄をもう一度犠牲にしながら……
「こんなので生き残っても、もう…… 」
もう何もしなくていい気がする。ここで抗っても意味のない気がする。
彼に死ぬなと言われたけど、私一人で消滅回避しても、二回もの彼の犠牲の上に成り立つ人生に価値を感じない。家族の命と引き換えの貰い物ばかりの人生をのうのうと生きようなんて思えない。それに、その報いとでも言う様に全ての救いが絶望に塗り替わっていく。
こんな人生なんてもう……
「ディメンショナル・キャンスラッシュ!!!! 」 ズバァ!!!!
「え、なに……? 」
全てを諦めようとした私の後ろで突然何かが裂かれる音と声がする。
「また敵……? 」
新たな槍使いだとしたら、もうここで私も終わらせて欲しい。
抗いにも絶望にも疲れ果てた。
「ほら、どうせあなたも持ってるんでしょ? その喋る槍で早く私を…… 」
「……何言ってんだ? フタリさん? 」
あれ……? この男の子の声どこかで……
「とにかく二人とも大丈……って、フタリくんっ!!? 」
あれ……? この女の子の声も聞き覚えが……
「お願い治ってっ!! ヒーリング・アクアっ!!!! 」ビシャアアアア……
え? 水? なんで水の音?
敵に襲われるわけじゃなさそうだけど、いったい誰が何をしてるの……?
俯く私は二つの声と二つの音の正体を知るため、涙で濡れきった顔を上げる。
そこにいたのは……
「ああ、よかったぁ!! 間に合ってぇ……!! 」
「まったく、俺達だけ追い出しやがって……心配したんだぞ? 」
「な、なんで……? なんで、二人が……? 」
「な、なんで……? なんで、二人が……? 」
左には見慣れたウェーブの眼鏡っ娘。
右には常に目に焼き付けてあるイケメン男子。
そう、この二人は……
「アユリさんに…… 」
「オサム君…… 」
結界外に置いてきたはずの親友達……って、え? 今アイツの声しなかった?
私は失われたはずの声にもう一度下を向く。
「あれ……? あなた死んだんじゃ……!? 」
私の腕の中で眠りに就いたはずの彼の目が微かに開き始めていた。
「ああ、僕のそのつもりだったんだが…… なんか生きてるな。」
しかも、しゃべってる。
え? 生き返ったの? そんあことあるの? 第一こんな傷で……
ビシャアアアア……
「……なにしてるの? 」
「……なにしてるの? 」
息を吹き返した彼の傷口に目をやるとアユリが両手をかざしていた。そして宙に浮く壺から水が流し込まれていた……何言ってんだろ私。今の説明を思い返すと自分でも意味が分からない。でも、目の前の現状を表すにはこのセリフになる。
アユリの左右で宙に浮かんでいる、青いクリアな飾りの付いた二つの壺。その一つから流れ続ける水が彼の傷口に流し込まれていた。
「なにその壺? ていうか、まず何でここに……? 」
「なにその壺? ていうか、まず何でここに……? 」
生き返った兄。
何故か結界内に来た親友二人。
アユリの傍に浮かぶ壺。
そしてそこから流れる謎の水。
たった数秒で複数の謎が生まれ出る。
「えーと、とりあえず、これは壺じゃなくて水瓶かな? 」
アユリが私たちの壺発言を訂正する。
相変わらず天然ぶりで安心するけど、聞きたいのはそこじゃな……いや、水瓶って言った? 水瓶……みずがめってことはまさか……水瓶座?
「あと俺たちはコレのおかげで、あそこから入って来た。」ガシャッ
何かを使って後ろを指すオサム君。
その手にあるのは黒光りして、真ん中にギザギザな割れ目のあるハサミのような長剣。まるで蟹の手……もしかして、蟹座?
さらに、その剣先で指した後ろでは……
「結界に裂け目……? 」
「結界に裂け目……? 」
破れないと聞いていたはずの結界の壁に、人が通れるほどの大きな裂け目がまるで何かに切り裂かれたように出来上がっていた。うちの玄関がその間から見える。本当にあそこから入ってきたらしい。
明らかに人間業じゃないが、オサム君の持ってる蟹のような剣。そして、アユリの横に浮かぶ水瓶。ここから導き出されるのは……
「まさか、ゾディアック……? 」
「まさか、ゾディアック……? 」
「そう、私が水瓶座のゾディアックで…… 」
「俺が蟹座のゾディアックってやつらしいぞ。まだよく分からないが、お前らもそうなんだろ? 」
親友二人はいつの間にか得ていた自分の星の肩書を私たちに教えてくれる。
「フタリくんも、フタリちゃんも。 」
「 フタリ も、 フタリさんも。 」
忘れたはずの祇峰フタリの名前を二つとも示しながら。