運命の分岐、運命の偏り dead or alive
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シュン……!
““ん? ユイガも一人に戻ったみたいだね? ””
「うん、30分ぐらい前にね。今はもう二人の人間の方が少ないわ。もしかしたら、もうあの子達だけかも。」
““じゃあ……、長かったワタシ達の役割もそろそろ終わりだね。あの二人も自分たちが双子ってことに気が付いたし。””
「そう……なら、あとは本当にあの子達次第。それで、どう? トシトシとリンリンは? 」
““実は今結構ヤバそうなんだよね……午のゾディアックがまた襲ってきた上に、神器神装してきて超強くなっちゃったの。””
「え? 私が調べたときは確かそこまでの力じゃ…… 」
““明らかに使い慣れてなさそうだったから、ここ数日のうちに身に付けたんだろうね。””
「想定外…… でもチサトちゃん達は? こういうときのために紹介してもらったんだけど…… 」
““直前まで一緒にいたけど、例の結界で分断されちゃった。今、酉と丑のゾディアックと戦ってる。””
「なかなかうまく事は運ばないわね……。で? 大丈夫なの? 二人とも生きてるんだよね? 」
““それがトシトシの方がリンリン庇って瀕死状態で…… ””
「ウソ……早く言ってよっ!! 今助けに……!! 」
““でも結界内だから、どうしようもなくて…… ””
「そんなっ……!! ここで片方でもいなくなっちゃったら、17年の努力が、私達の想いが……!! 」
ピシュン……
「えっ……? この気配は……? 」
““どうやら、諦めるのはまだ早そうだね…… ””
「そっか、これは…… 」
そうだ。そうだよね。まだ諦めちゃいけない。
お姉ちゃんとして、あの子たちを信じなきゃいけない。だって私には……
‐ だからあなたは、その子たちを守り信じる素敵なお姉ちゃんになってね。 ‐
この小指で結んだ約束があるのだから。
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「僕らがお互いを犠牲に……? 」
僕らが双子であるという証明から、さらに導き出されるもう一つの真実。
今まで祇峰フタリが生きていた理由であり、今まで祇峰フタリがいなかった理由。
「そう……、だからあなたが私を庇う必要なんてなかった……。早く伝えるべきだった……。すでに私は、あなたに生かされていたかもしれなかったのに…… 」
「でも、これが本当なら僕だってお前を…… 」
僕は守られたことを悔いる彼女にお互い様を提示する。
過去の僕らと母親に何があったのかは分からないが、自分の今までの人生が実の家族の犠牲の上に成り立っていたというのだ。もちろん、そんな簡単な言葉で採算をとっていい事実でないことは分かっている。
だが向こうの世界の僕は彼女を生かし、こっちの世界の彼女は僕を生かした。そう考えればつり合いが取れていると言えなくもない。少なくとも彼女だけがそれを悔いるべきではない。
「じゃあ、今はどうなの……? 」
「え……今? 」
「私だって最初はお互い様で割り切るつもりでいたわよ……だって、過去には戻れないもの。後悔してもどうにもならないってことくらいは分かってる。こっちのあなたにも、あっちの私にも申し訳ないけどそう思うしかないって分かってた。」
そこまで理解していながらなぜそんなことを思う?
なぜそんなに後悔と悲しみで顔をいっぱいにしている?
「でも今、私はあなたに守られた。私だけが残り、あなたは体に空洞空けて倒れてる……これはお互い様? そんなわけないでしょ……? これは私だけがあなたを犠牲にして、また生き残るだけっ……!! 」
「ち、違うっ!! ここでただ生き残っても僕らに待ってるのは…… 」
「違わないっ!!!! 」
僕の否定が始まる前に、彼女はさらに強い否定で僕を黙らせる。
「ここで生き残っても、消滅するかもしれないって言いたいんでしょ? 」
「…… 」
当たっている。
僕らの関係が自分同士であっても、双子であっても待っている運命は変わらない。前者は姿かたちが違ったし、後者に至っては片方が既に存在していないのだ。どちらにしても、消滅対象。
だから、今死んだとしても死ぬのが早まっただけ……みたいな浅はかで情けない反論を読み取られ、返す言葉もない。
「でも、生き残る術があるのも確かなんだよ…… ? 必死に残りの時間で探せばよかったのに、足掻けばよかったのに……今死んだら、何も望めないじゃない。残った私しか望むことが出来ないじゃないっ!!!! 」
「…………ごほぁっ!! 」ビシャッ……!!
安心させたい。
後悔させたくない。
そんな思いと自分の行動の肯定、そして真実を知るためにのために痛みを堪えてきたが、彼女を納得させるための言葉を喉から失ったと同時に、その代わりと言わんばかりの血反吐が大量に込み上げてきた。
「ハハッ……、こんなタイミングで悪いがお迎えらしい…… 」
「ホントに死んじゃうの……? 」
「そうだな……、でも後悔はやっぱりしてないぞ? 女の子……しかも家族守って死ぬってんなら意外とカッコつくだろ……? 」
「カッコよくなんかない……、死なれる側の気持ち考えなさいよ……!! これじゃ何からも救われないし、あなたのただの自己満足でしかない……!! ヒーロー気取るなら、気持ち事全部救ってからにしなさいよっ……!!!! 」
「自己満足とは手厳しい……ああ、でも今思えば間違ってないか…… 」
彼女に責められる言葉で僕は敵のキックに飛び込んだ時の感情を思い出す。
「確かに自己犠牲じゃなかったな……、自己防衛だ…… 」
死にかけの僕は最後に自分の行動の動機を伝えることにした。
こんなこと相手に言うのは、恥ずかしすぎて死にたくなりそうだが、もう死ぬなら問題ない。死を自分から待ち望めるし、恥を土産にすれば手ぶらで冥土に行くことはなくなる。
「こんな状態になって、自分の何を防衛したのよ……? 」
どうやら瀕死のせいで頭がおかしくなったと思われてるみたいだが、もう決意はしたし、かまわず続ける。
「お前を守った時、こう思ったんだ。コイツを失いたくないない……って。」
「え……? 」
「いや、もっと不細工な言葉だったな。ただお前がいない世界を、お前が死んだ世界を一瞬想像したとき…… 」
「寂しいって思った。」
「そんな感情から自分の心を防衛するために、僕はお前をかばったのさ…… 」
「……そんなウサギみたいな理由で? 」
「ああ。やっぱ、ヒーローにしては可愛すぎたな…… 」
「元いた世界にも、私はいないのに……? 」
「ああ。お前とのやり取りは、なんだかんだ楽しかった…… 」
「罵ってた記憶しかないけど…… 」
「あれ? 最後の最後にドMのレッテル貼られてね……? 」
「フフッ……そうね。じゃあ、もっと罵声浴びせて上げるわよ、変態さん? 」
「やめてっ!! 変態のまま看取らないでっ!! 」
「……だったら生きなさいよ。 」
「…… 」
「私だって、短い間でも楽しかったんだからっ……!!
「もっと長い時間を過ごしたいからっ……!! 」
「せっかく会えたんだからっ……!! 」
「だから、死なないでよっ、フタリっ!! !! 」
「ああ、ぼ、くも、ざ、んねんだ……だけど、 お、まえは、生きろよ……、フタリ?」
そして、彼女の叫びを聞きながらとうとう僕の意識は深みに落ち始める。
そうだよな。せっかく会えたのにな。せっかくいろいろ噛み合った気がしたのにな。残念でならない。
双子としての生活をしてみたかった気もする。
でもまぁ、会えるはずのない家族に会えただけ良しとしよう。
結局、謎は解けなかったが人類二倍世界がなければ、僕はコイツの存在を知ることすら……
……あれ? 人類二倍がなければ僕らは出会えなかった?
これって、まさか……いや、まさかな。そんなわけない。変なこと考えず大人しく死のう……
……
…………
………………
……………………いや、でもアイツ確か力を引っ越しとか、世界が終わるとか言ってたよな?
それにノーコメントとか言ってたけど、明らかに双子座の力が関わってる様子だったし……
そう考えると、もしかして世界は……でもそれだと明らかにおかしいか。そうだな、勘違いだな。よし、今度こそ死のう……
……
…………
………………
……………………
‐ ““おっ、そうだった。ユイガから最後にヒントの言葉を預かってるよ? ”” ‐
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…………………………………………………………………全部噛み合わね? これ……真相じゃね?
つまり僕らは、お互いを犠牲にしたというよりも……ヤバい、これは伝えねばならない。
僕は最後の最後で走馬灯のように駆け巡った人類二倍時の出来事をつなぎ合わせ、全ての真実に気が付いた。そしておそらく消滅回避の方法にも辿り着いた……のに時間がない!!
どうする!? 伝えずに死んでいいことじゃないぞこれ!!?
「うわああああああああああああああああん!!フタリぃ……!!!! 」
かろうじて僕の死を悲しむアイツの泣き声が聞こえる。
まだギリギリ死んでない。でも真実を喋るための口がもう開かない。それどころか、目も見えない。耳がかすかに聞こえるぐらいだ。
そんあほとんど死んだ体でどうすればいい? どうすればアイツに全部教えられる!? やっぱ、生き返らないとダメか……? あれ? というか、そもそも……
僕らフタリが揃ってないとこの消滅回避法は使えないっ!!!!
しまったっ……!! 死んじゃダメだった……でも僕が庇わなかったら、アイツが死んで結局消滅免れないし……
なんだよこれ。どう行動したとしても手詰まりだったじゃねえか。まるで僕らはどうあっても、消えるしかないみたいな運命じゃないか。こんなの救いがなさすぎるじゃないか……!! 誰も僕らを救ってはくれな……
「ディメンショナル・キャンスラッシュ!!!! 」 ズバァ!!!!
な、なんだ? 突然何か裂かれた音と聞き覚えのある男の声が……
「お願い治ってっ!! ヒーリング・アクアっ!!!! 」ビシャアアアア……
つ、冷たい!!? なんだこれ? 傷口のあたりに水が流し込まれてる? それに今のは聞き覚えどころか、今も耳に録音してあるレベルの素敵な声だった気が……
「あれ? 目が開く……あれ? 喋れる……? 」
僕は何故か徐々に回復しつつある身体機能に驚きながら目を見開き、その既知のような謎人物たちを捉える。そこにいたのは……
「ああ、よかったぁ!! 間に合ってぇ……!! 」
「まったく、俺達だけ追い出しやがって……心配したんだぞ? 」
「な、なんで……? なんで、二人が……? 」
「な、なんで……? なんで、二人が……? 」
一人は短髪の男で相変わらず気に食わないイケメンフェイス。
もう一人は僕のすぐ近くで座る、首元までウェーブのかかった眼鏡美少女。
そう、この二人は……
「アユリさんに…… 」
「オサム君…… 」
結界外に置いてきたはずの僕らの親友だ。