超常を解く by 双凛
「ぼ、僕らが双子……!!? 」
突如告げられた僕たち祇峰フタリの正体。
そして、その証拠としてポケットから出されたエコー写真。
「ほ、本当にこれが僕らなのか……? それに僕がフタバでお前がミライって何がなんだか…… 」
とても信じきれない僕は戸惑いながらも写真の真偽を問う。
命あるものとはいえ、ここに写っているのはただの二つの影。そんな男か女かも見分けがつかない写真が、僕ら二人であるという証明になり得るかは疑問なのだ。きっと、別の双子の……いや、別の双子なんているのか?
「いえ……きっと私たちだよ。だって、これに挟まってたんだもん…… 」
ガサッ……
彼女は同じスカートのポケットから小さく古めかしい冊子を二冊取り出して、左腕に倒れる僕の視界にその表紙を入れる。
「それって……母子手帳……? 」
二つの赤ちゃんのイラストが載った表紙の一番上にそう書いてあった。
何のためにあるかなどの詳細は知らないが、存在は知っている。確か子供が生まれたときか、生まれる前に母親が役所から貰うものだ。実際、さっきの押し入れ探索でも祇峰双利の名前の物が出てきたし、祇峰双凛と書かれたものも出てきた。僕らの出生の証とも言えるのだろうか。
でも僕らのそれはどちらも片方の世界にしかない物となるのだから、この世界から存在を認められず、割れ消えたはず……でも、その形も保っている手帳はいったい……? そこに書いてある名前は……
「祇峰双葉に……、祇峰参蕾……? 」
いや、参蕾って読むのか…… ってことはこれらがさっき言った僕らの本来の名前?
それが記載してあるってことは少なくとも存在はしたんだろうが、それが自分たちだと簡単には受け入れられない。
だいたい僕は17年間ずっと祇峰フタリだ。コイツだってそうだったはず。特に参蕾なんて全くフタリとの関連がなさすぎて意味が分からない。双葉なら“双”が僕らの名前と一緒だからまだしも……ん? 待てよ……僕らの“双”の意味ってそういえば……
「っ……!! これまさか姉貴と…… !! 」
双葉と参蕾。そして姉の唯芽。
僕は自分の名前の意味を思い出すことで、これらの名前の示す意味と事実に気が付く。
「そう。唯芽、双葉、参蕾。この三つの名前の一文字目は数字。お姉ちゃんだけ分かりにくいけど唯“一”を連想して1。“双”と“参”はそのまま2と3。」
すでに名前の仕組みに気付いていた様子の彼女は、今度は胸ポケットから八つほどに折られた様子の紙を取り出し、それを開きながら説明を続ける。
「そして、それぞれの二文字は花の成長。“芽”が出て、“葉”が開いて、花開くための“蕾”が付く…… ほら、綺麗に繋がる三つ揃ってこそ意味ある名前たち。つまり……、」ピラッ
「この三人は同時に存在するはずだったんだよ。こんな風に…… 」
僕の顔の前に母子手帳と入れ替わりで一枚の絵が出される。その子供がクレヨンで描いたと思われるあどけない絵にあるのは、左上の作者名らしき歪な『たんぽぽぐみ ぎみねゆいが』の文字と、手を繋ぐ三人の子供。さらに、その子達の頭上には……
ゆいが
ふたば
みらい
今その意味を解き明かしたばかりの、それぞれの名前があった。
「これが姉貴の夢……? 」
たんぽぽぐみの文字や僕らとの年齢差を考えると、僕らが双子であろうがなかろうが生まれる前の作品ということになる。だからこれは現実を描写したものじゃない。想像された景色であることは明らか。だからここから分かるのは……
姉貴は弟と妹の存在を同時に望んでいた。その3人で手をつなぐことを夢見ていた。生まれてくる双子との未来を思い描いていた……
「じゃあ、ホントに僕らは双子……、いや、でも…… 」
僕は彼女が示した諸々の証拠と言えるから自分が双子で祇峰フタバであることに納得しかけるが、即座に否定サイドに言葉を切り替える。
この双子関係を真としたとき、絶対無視できない重大な矛盾が中央部に存在していることを思い出したのだ。
正直言えば、僕は双子というワード自体には心から驚いているわけじゃない。
兄妹。
姉弟。
双子。
この三つの関係性は彼女とのやりとりの中で何度か頭に浮かんではいた。だから、さっき彼女が僕らの関係性を告げたときも衝撃を受ける自分の中に納得する自分も僅かながら現れていたのだ。
これらの繋がりの方がが自分同士なんていうファンタジー関係以上に納得がいくし、双子の方が一見するだけなら現実的。彼女の口喧嘩もキョウダイ喧嘩と題するのが一番ふさわしいような気もしていた。
今思えばコイツの前で忘却や消失に対して強がれたり、攻撃から庇ったりしたのは兄としての本能だったのかもしれない。
僕らを双子とする手掛かりは僕自身の中に十分存在していたし、認識もしていた。
だが、これが真実とは一切思わなかった。思う前に僕の頭から自然と姿を消した。当然だ。だって僕は昨日の人類二倍が起こるまで、ずっと……
彼女のことを知りもなかったのだから。
「じゃあ、なぜお前は僕の世界にいなかった……? なぜ僕はお前の世界にいなかった……? なぜ僕らはフタバでもミライでもない、フタリという名前を持っているんだ……? 」
僕は双子であることに納得できない理由を彼女に疑問としてぶつける。
双子が本当に真実であるというのなら、僕らは、同じ時を過ごし、同じ家で成長し、同じ世界で生まれている必要が……
「生まれ……なかったんでしょ…… 」
「え……? 」
彼女は僕の疑問に対する回答をさらなる驚愕の内容で告げる。
「だって17年昏睡状態になるくらいのお母さんが妊娠時も健康だったとは思えないし、そんな体でお腹に双子が出来たなら、何かトラブルがあったとしても不思議じゃないでしょ…… 」
「お、お前はまた何を言って…… ?」
「まだ分からないの……!? この世界は祇峰フタリの性別で分岐したわけじゃなくて、ただあなたが生まれたか、私が生まれたかで分岐したんだってこと……!! 」
「それって、まさか…… 」
僕は彼女の辿り着いた真実をようやく理解する。
理解して、拒みたくなる。理解したからこそ、受け入れたくなくなる。
「そうよ……私の世界ではあなたが死に、あなたの世界では私が死んだっ……!! それがこの世界の分岐点……!! そして、“フタリ”という名前の意味は生きられなかったもう一人の無念を背負えという、“フタリ分の人生”……!!!! 」
「私とあなたはお互いの命を犠牲にしたから生きていたのよっ!!!!!! 」
彼女は腹に大穴が開いている僕よりも苦しそうな顔で祇峰フタリと世界の真実を叫んだ。