守る双利、告げる双凛 true of 祇峰フタリ
気が付くと彼女はボロボロの格好で宙に浮いていた。
さらにその上部では鎧姿の敵が蹴りの姿勢を見せている。
そうだ。ギリギリ防いだけど、僕さっきはアイツに吹っ飛ばされて…… なんて振り返ってる場合じゃなさそうだ。
それを理解すれば、もう僕の体はひとりでに動き出す。
アイツがもう一人の自分だと分かっていても。
いや、分かっているからこそ防衛本能が働くのかもしれない。
きっと、僕がやろうとしていることは誰でも出来る自己防衛だ。
決してカッコつく自己犠牲なんかじゃない。
ただ自分で自分を守るだけ……
いや、でもそれ以上に……
僕はただアイツを……
ダッ、ビュンッ!!!!
「あ、あなた何してっ……!!? 」
「フッ…… 」
グシャリ……、ブシャアアアアアアアアアアッ……!!!!!!
全速力で敵とアイツの間に割り込んだ僕の腹に空中からの蹴りがお見舞いされ……というか、貫かれた。
俯いてみるとそこにあるのは緑色に輝く膝。つまり膝から下の部分が丸々僕の体を貫通し、大穴を開けられたのだ。
「お前……生きてたのか。」
『お前……生きてたのか。』
「ぐぶっ……、か、勘は空手のおかげで鍛えられててね……す、姿は捕らえられなくても、気配ぐらいならっ、ぶはぁっ……!!!! 」
喋ろうとすると、言葉と共に口から血が流れ出る。
どう考えても重傷どころか死因だが、痛みはそれほどじゃない。アドレナリンってホントに効果あるんだ、なっ!!!!
ガシッ!!
「な、なにっ!? 足が抜けない……!! 」
僕は自分の体に突き刺さった敵の足を思いっきり両手で掴んで動きを封じる。
だけど、これだけじゃ足りない。力も入りきらないし……なら!!
「なんで、あなた……!! なんで……!!? 」
「おい!! 今すぐ僕に触れて身体能力を二倍にしてくれっ!!!! 」
僕はもう一人の自分の行動に対してショックを受けている彼女にジェミニック・トゥワイスを要求する。
「え……? は……? こんな時に何を……? それにそれって意味な…… 」
「い、いいからっ!! 早くっ!!!! 」
「う、うん……!! ジェミニック・トゥワイス!! 」パンッ!
おそらく二倍世界によって作られた全く同じものである、僕ら二人のジェミニックグローブ。
そして、二倍の重ね掛けが出来ないことが確認できているジェミニック・トゥワイス。
僕同様これらのことを理解している様子の彼女は一見意味がないとしか思えない指示に困惑を見せたが、切羽詰まった声を聞いて起き上がり、足へのタッチで二倍を実行してくれた。
「よし……きたっ!! 」グワシッ!!
「ち、力が強く……テメェ何をっ!!? 」
「ぐ、ぐふっ……せ、せかっく捕まえたんだ……、これぐらいはしないとなぁ!!!! 」
ズボッ……!!「ぐあっ!! ぐうっ……いってぇ!!!! 」
力を強めた僕は自分の体に突き刺さった敵の足を激痛に耐えながら、溢れ出る大量の血液と共に引き抜く。そして……
グワッ……!!
「うおっ!!? 」
『うおっ!!? 』
敵の体を空中に振上げて全力で……
「吹っ飛べえええええええええええええええええええええええっ!!!!!!!!!!!!!!! 」ブンッ!!!!!!
その先の地面に思いっきり投げ飛ばした。
ドカァーーン!!!!
「ぐっ……はぁっ!!!? 」
残りの力を振り絞った僕に叩きつけられた敵は体を数バウンドさせて、結界の壁の方へとぶつかる。
『ヤマト、これ以上はマズい!! 一旦解除だっ!! 』バシュン……
緑の光が見えなくなった。おそらくあの鎧状態を解いたのだろう。
だったら結界の方は……まだ解除される様子がない。まさか、まだ勝て、てない……の、か……? あっ……もうダメだ……
グラッ……
「ああ、死ぬなコレ…… 」
最後の反撃を終えた僕は死を悟りながらその場に背中から倒れ始める。
今日は何回も命の危険を感じては回避してきたが、これは流石にもうアウト。体の真ん中に空いちゃいけない穴が開いている。出血も尋常じゃない。自分の足元には、血の海でほぼ殺人現場が出来上がっている。あとは僕という死体があれば完成だ。
あーあ、死んじゃいけなかったのにな……
僕なしでアイツは一人でも滅は回避できるのだろうか……?
結局人類二倍ってなんだったんだろうか……?
祇峰フタリってなんだったんだろうか……?
こんな様々な未解決の未知への未練が頭を駆け巡る。
走馬灯ならそんな意味不明共なんかじゃなくて、アユリさんの顔だけでいいんだけどな……あっ、あとついでオサムもいてくれていい。いや、待てよ……高木とか沢田、吉井にも世話になったな。おっと、親父も忘れちゃいけない。姉貴は……いろいろあったが総合すれば一番世話になったな。一番迷惑もかけられた気がするけど、最後の景色にいる資格は十分にある。それに今守った短い付き合いだったもう一人の自分だっていていいし、それと僕を……
……止まらないな。
流血以上に未練が止まらない。
意識は遠のくばかりなのに、思い出は頭に凝縮されていく。
「ハハッ……、死にたくないんだな僕。 」
全部覚悟して飛び込んだはずなのに、結局カッコつかない僕。
そんなダサい自分をあざ笑いながら、そんな自分が守った彼女のこれからの無事を天に祈りながら、僕は静かに目を閉じ……
「だったら、死なないでよ……!! 」ガシッ……
地面につきかけた僕の肩を受け止める者がいた。
遠のく意識と薄い視界の中でその覗き込む顔を見つめる。
僕とは違う髪型、違う顔、違う服に違う性別。
ボロボロ姿だけど、僕とは真逆の後ろで髪を纏めた完全な女子高生。
なのに僕と名前は同じ……祇峰フタリだ。
「フッ……どう、した……? そ、そんな、顔して……? 」
「どうしたじゃない……、なんで庇ったのよ……? なんで守ったのよ……? なんでアンタが死にかけてんのよ……? なんでそんな自己犠牲しちゃうのよ……!? 」
彼女は僕を叱るように疑問を投げ続けた。
その表情には悲しみ、後悔、不満……いろいろな感情が浮き出ている。まるで、自分が死ねばよかったと言いたげだ。だが……
「さ、さっき家でも言ったろ……? これは自己犠牲なんかじゃないんだよ……。」
僕は祇峰フタリという性別が違うだけというお互いの関係性を示し直して、彼女を納得させようとする。
「ただの自分可愛さの自己防衛……、僕という祇峰フタリが死んでも、お前という祇峰フタリが生きれる道を見つけてくれれば、祇峰フタリという存在は死なな…… 」
「違う……!!!! 」
「は……? 」
「違う……!! 違う、違う、違う、違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違うっ!!!!!!!!!!!!!! 」
突然彼女が僕の言葉の何かを必死に否定し出す。
なんだ……? な、何をそんなに……?
「ち、違うってなにが違うんだ……? 僕とお前は性別は違っても自分どう…… 」
「だから、それが違ったのよっ!!!!!! 」
違う……? それが違うってことはつまり……僕らは自分同士じゃないっていいたいのか……?
いや、でもそれは……
「な、何言ってんだお前……? た、確かに信じがたいことだったが自分同士ってのはお互いに確認しあっただろ……? 第一、自分同士じゃないって言うなら僕らはいったい……? 祇峰フタリっていったい……? 」
死んでる場合じゃなくなった。彼女のこの否定はそれほどまでに衝撃だった。
僕は痛みも死も忘れて、わずかに残った体力で女の自分であるはずの彼女を問いただす。
「教えてあげる…… 」ガサッ
真実を告げようとする彼女は僕の肩を支えていない方の右手で、スカートのポケットから一枚の紙……いや、写真のようなものを取り出す。
「それは……エコー写真? 」
確かそんな名前だった。彼女が取り出したのは白黒のエコー写真。
それも母親のお腹にいる胎児の影を写し出したもの。おそらく、このタイミングで出すってことは僕かコイツのもので、あの押し入れから見つけたんだろうがそれが何を示して……あれ? 僕かコイツの写真ならこの世界からはじかれて消えるはずじゃ……? というかこの写真どっちのも……のっ!!?
「……っ!!? そ、その影って、まさか……!! 」
僕は子供を写し出している影の違和感に気付く。
いや、形じゃない。数だ。
「影が二つ……? 子供が二人……? 」
そう、明らかに二つあった。
二人の胎児がお腹の中に写っていた。
ということはつまり、これは僕だけの写真でも、コイツだけの写真じゃなくて……
「これが僕とお前……? 」
「そう……これが私とあなた。」
「じゃあ、僕らは自分同士なんかじゃなくて…… 」
僕は完全に写真の意味を理解する。だが、理解して困惑する。あり得るはずのない真実を飲み込めずにいる。
そんな僕をよそに彼女はさらなる真実を告げ続けた。
「ええ……、あなたの本来の名前は“祇峰双利”じゃなくて、“祇峰フタバ”…… 」
「私も“祇峰双凛”じゃなくて、本当は“祇峰ミライ”…… 」
「きっと同じ世界に生まれ出るはずだった双子なのよ……!! 」