反撃の狼煙 road to victory
「うっ……ガハガハッ……!! 」
敵が二発の拳を入れられた拍子に首から手を放し、槍を遠ざけたために助かった僕は解放された首を抑えながら息を整える。
初めて首絞めというものを体験したが、あれはもう二度と味わいたくない苦しみだ。痛みであれば試合で何度も……というより今日何度も身をもって感じてきた通り、意識が刺激によってよりはっきりとする場合が多い。だが息が止まる苦しみは逆。どんどん意識が遠のいていくばかりなのだ。
死に繋がる様な痛みからでも“生”を感じられるが、苦しみからは“死”しか感じられない。完全にトラウマもんだよこれ。
「あら、カッコつけてた割には随分ボロボロじゃん? 」
敵への連撃を成功させた女の僕が隣で拳を構えたままの警戒状態の背中で嫌味をほざく。
「へっ……、どっかの誰かがあまりにも足手纏いだったからな。無茶でも虚勢張るしかなかったんだよ。」
「たった今助けてもらったのにずいぶんな言い草ね。」
「お前がそれを言うかよ…… 」
誰のために不利丸出しの勝負に一人で挑んだと思ってんだよ。
「でも、そのムカつく口が戻ってるってことは全部吹っ切れて本調子ってことか? 」
「ううん、全然。」
「は? じゃあ、なんで来たんだよ。」
その悩みか何かが足枷になってたんじゃないのか? なのにそのままで戦うって……
「別に大した理由じゃない。ただ、ここで生きて帰らないと吹っ切るもなにもないってことに気付いただけ。 」
「……? お前、ホントに何に気付いて……? 」
僕は何故かコイツだけが知り、戦いに集中できないほど悩んでいるというものへの疑問を深める。
コイツが僕と家の中で別行動したのは二階に残った時と、アユリさんたちの訪問時についてこなかった時だけ。しかも前者の後の様子はとても大きな悩みを抱えている様子はなかった。つまり、僕がアユリさんらの話を聞いている数分間の間に何か見つけたか気づいたんだろうが、一体何を……?
「それはちゃんと話す。でも、こんなドタバタの中で言っていいことじゃない。慎重にならなきゃいけないの。ちゃんと時間を作って、その中で向き合って、多分それを消滅回避に繋げないといけない。だから、アイツを倒したら話しましょう。私たちにとっての最大の鍵を…… 」
そんなに重要な事実で僕らの鍵? 結局何抱えてるのかはよく分からんが、まぁ、要するには……
「要するに、話を聞くためにもアイツを倒せってことだな。」
目先の目標を捉え直した僕は立ち上がって、もう一人の自分と肩を並べて吹き飛ばされた敵の方へ構える。
「ええ。今はそれだけ考えてくれればいいわ。まぁ、でももう…… 」
「でも、どうする? 僕は消耗してるし、あの馬鹿は二発の命中くらいじゃ…… 」
「いや、大丈夫。ほら、あれ見て。」
僕がここからの戦いに不安を見せると、隣の彼女は安心しろと言わんばかりに前方を指さす。そこには……
「ぐ……!! ぐぅっ……!! 」
明らかに動きが鈍く、顔と肩の痛みに耐えきれていない様子の敵がいた。
『おい、ヤマト? どうした!? あれぐらいでやられる俺達じゃねぇだろ!!? 』
「お、おかしい……体が重いし、殴られた痛みも半端じゃねぇ……!! あ、アイツ……こんなに強かったか……? 」
どうやら想定外の威力と、思うように動かない体に困惑しているらしい。明らかに重症に見えるし、こっちにも勝機が……
でも、なんであんなんになってんだ? 特別、急所に当たったようにも見えなかったし、ただ殴られただけであんな……いや、待てよ。コイツさっき殴る時に……
「お前、あの馬鹿になんかしたろ。攻撃技でもないのにジェミニック・トゥワイスって叫びながらぶん殴ってたもんな。」
「そっ、正解。」
「で、何を二倍にしたんだ? この力でアイツにあそこまでの深手負わせるなんて、どうやって…… 」
「フフッ、簡単よ? 殴ると同時に私は…… 」
「アイツが受けるダメージとその体に掛かる重力を二倍にしたのっ。」