絆のカケラ name
「やっぱりここは君の家だったのか…… 」
「やっぱりここは君の家だったんだ…… 」
「なんで……、なんでお前らが……? 」
玄関の扉の先にいた親友たち。
僕らを忘れ去ったはずの親友たち。
だから、訪ねてくるはずのなかった親友たち。
なのに目の前にいるのは、紛れもない薄明アユリと鴉根オサム……、手放したはずの絆たちだ。
「まさか僕たちのこと思い出したのか……? 」
僕は現れた二人の姿を見て、つい記憶の回帰を期待してしまう。
だが……
「悪い……俺たちは君のことも、一緒にいた女の子のことも全く分からないし覚えがないんだ。」
オサムが申し訳なさそうに僕の抱いた希望を否定する。
当然だ。この二人は杉佐多たちとは違ってゾディアックではない。万が一にも片方の世界にしかない僕らの記憶が残っている可能性はないのだ。
そんなことは分かりきっている。分かりきっているのに……、あんな期待が咄嗟に過ぎってしまうなんて我ながら未練タラタラだ。しつこい男は嫌われるって姉貴に言われてんのになぁ……
「じゃあ、なんで僕たちのところに……? そもそもなんでこの場所がわかって……? 」
僕は期待を否定されると同時に、自然と浮かび上がってくる疑問を口にする。
祇峰フタリを忘れたままの人間がこの家に辿り着こうとするはずがないし、辿り着けるはずがない。ここに来る動機も方法もこの二人には存在しないはずなのだ。
「それがね……少しだけ覚えてることがあるの。」
「覚えてること……!? 」
僕らに関する記憶なんて残っているはずのないアユリさんの返答はあまりにも予想外なものだった。
「ああ、俺と薄明さんの間に誰かがいたという感覚と、その人物の誕生日や学校の席とか。そいつの姿も性別も分からないのに確かにその存在があったことと、断片的なプロフィールだけが不思議と頭の中にあるんだよ。しかも記憶の結構浅い場所……つい最近まで一緒にいたかのような場所に。」
「……っ!!? 」
オサムの意外な告白にも僕は不意を突かれる。
全てを忘れてしまったと思い込んでいたのだ。どんな些細ことでも僕らに関する記憶があるだけで大きな衝撃となる。しかも、次にアユリさんは……
「そしてその記憶の中に住所もあった。だから私たちはここに来たんだよ、祇峰フタリくん……? 」
「な、なぜ……名前も……!? 」
覚えているはずのない名前で僕のことを呼びかけた。
全てを忘れられたはずの祇峰フタリには、まだ消えずに残されているものがあったのだ。