覚えていた人達 visitors
「なるほど。この世界について話し合おうと思って、祇峰家を探し出したんだが……、その間に人々は君たちのことまで…… 」
僕は突然訪ねてきた星座の男女に、現在の世界と忘れ去られた自分たちについて話した。
「家族にも親友にも……、それは辛かったねぇ……、よしよし。」
黒羽さんは自分に抱きついて離れない女の僕の頭を優しく撫でてくれる。
大切な人々に忘れられ続けた僕らにとって、この記憶を保っている二人は差し込んだ光だ。彼女が感動で号泣するのも分かる。なんなら僕も涙腺をあとちょっと捻るだけで泣くことになりそうだし。
「ぐすっ……、また泣いちゃった。いきなり抱きついたりしてごめんね…… 」
僕の説明の間に泣き止んだ彼女は黒羽さんの大きな胸から離れる。
「でも、なんで君達は一人に戻っても僕達のこと覚えてるんだ……? 」
涙を拭って落ち着いた彼女を横目に、僕は二人に記憶を保てている理由を問う。
この超常が起きてから出会った存在達ではあったが、人類から人類二倍の間の記憶も消えている以上、この二人が祇峰フタリを覚えているのは普通おかしいはずなのだ。
「……確証はないが、おそらくゾディアックの力のおかげだと思う。」
少し考えた杉佐多は僕らに自分の見解を述べる。
「星のゾディアックの力は十二個全てが同じ神から分裂して生まれたもの。神の力を持つ者はが同じの力を持つ者のことを忘れることはない……と考えられるかもしれない。だから、オレたちは神の力が関わっている人類二倍関連のことも覚えていられるんじゃないだろうか? 全部推測の域を出ないが。」
よくあの数秒でこんな仮説思いつくものだと感心する。見た目のクールさに恥じない頭脳の持ち主らしい。
そんな早口解説だったけれど、僕にも杉佐多の言っていることはなんとか理解できた。確かに昨日夢のアイツも神から別れた片割れみたいなことを言っていたから、要約すると自分が自分のことを忘れるわけがないってことの神様バージョンってことだ。確証がないとは言え、納得できなくもない。
「理由なんてどうでもいいよ。私達を覚えててくれた……、それだけで十分……ぐすっ。 」
せっかく杉佐多が説明してくれたのだが、女の僕がまた泣き出しそうなので話を変えてあげよう。
どうせ話さなきゃいけないこともあるし。
「それで、君達には槍使いとかゾディアックの力とかいろいろ聞きたいこともあるんだけど……今はそんな場合じゃなくてな。」
「そんな場合って、他にも何かあったの? 」
「ああ、実は…… 」
ビシビシビシビシビシビシッ…………
ビシビシビシビシビシビシッ…………
僕が黒羽さんの疑問に答えようとした瞬間、その足元から亀裂音が聞こえる。
まだ説明していないことがすぐ近くでも起こったようだ。
「な、なに? なんの音!? チサト怖いよぉ~!!」ギュッ!
音に驚いた彼女は相変わらずの調子で隣の男の首に抱き着く。
「だから毎回ひっつくなって……、っ!? これは……!! 」
杉佐多も足元で起こっている超常に気が付いて驚愕する。
「靴にヒビだと……!? 」
「靴が割れてるっ!!? 」
次に亀裂音を出していたのは僕らが脱ぎ散らかした二足の靴。
ビシビシビシビシビシビシッ…………パリン
ビシビシビシビシビシビシッ…………パリン
それらが訪問者二人の前で光となって消え去った。
「えぇ!? なんで、なんでぇ!? 布なのになんでぇ!!? 」
「いったい何が起こって……? 」
消えるはずのない物の消滅に二人共が困惑を見せる。
僕らもスマホの消失を初めて見た時はこんな感じだったんだろうな。
だが彼らに伝えたいのは、私物の消滅ではない。これから僕らを待っている最悪だ。
「すべてわかってるわけじゃないが……これだけは言える。このままだと…… 」
「僕たちもこんな風に消えてしまう。」
「私たちもこんな風に消えてしまう。」
僕らは声を合わせて自分たちを待ち受ける運命を告げた。