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予期せぬ安堵 way to survive



 「……ゴホッ、ゴホッ!! 僕は、たった今お前に殺されかけたがな…… 」


 半分以上自業自得のくせに、私に締め上げられた首を押さえながら、もう一人の自分がぼやく。


 「そういうことじゃない。もうあと数時間のうちに解決法を見つけなきゃいけないのに、二人揃って余裕過ぎないかってこと! 」


 「ああ、まぁ、確かに…… 」


 私の自分を含めた指摘に、全く同じ境遇に置かれた彼も心の余裕を自覚する。この先が消滅なら絶対にもっと張り詰めて、焦りに焦ったっていいはず。むしろ生きることを目指す者としてはそうなって然るべきだ。あんな馬鹿なやりとりする暇なんてあるわけない。


 「こんな気楽で解決なんてできるのかな……、もっと緊張感持たないとっ。」 グニィ……


 私は気を引き締めるように、自分の頬を強くつねる。


 「なんだ? その女々しさに欠ける気合いの注入。」


 「あれ? 私のくせに知らないの? 試合の前はずっとこうしてたんだけど…… 」


 「じゃあ、性別だけじゃなくてセンスも違うみたいだな。」


 「これ、アユリが教えてくれたんだけど? 」


 「なんだ? その可愛らし過ぎる気合いの注入。」


 「TVじゃないんだよ。編集点作っても撤回できない……って、まただ。またやっちゃった…… 」


 さっき気を持ち直したばかりなのに、また無意識にくだらない漫才を始めていた。

 やっぱり、なぜか緊張感に欠けてふわふわとしてしまう。こんなんじゃ、ダメなはずなのに……


 パシッ!!


 「イッタ…… 」


 気の入れ様に悩む私の額に、突然弾かれた様な痛みが走る。


 「気楽にしろとは言えないが、そんな張り詰めなくてもいいんじゃねぇの? 」


 「え……? 」


 痛みとともに閉じた目を開けると、彼がデコピン後の手の形で立っていた。私とは対照的で呑気な言葉と、今にもにっこり笑いそうな表情で。


 「なんで、あなたはそんな安心できるのよ……? 」


 「だって、やっと見えた希望だろ。 消えずに済むかもっていう。」


 「あっ…… 」


 彼の言葉で私は現状に対する別の捉え方に気づかされる……いや、本当は心の奥で本能的に気づいていたのだろう。だから、気持ちが宙に浮きかけていた。

 この短時間で襲撃、大切な人たちからの忘却や大切な品の消失を経験し、今もきっと続いている。大きな決断もしたし、はしたなく大号泣もした。

 これらの絶望を思えば、消滅回避は希望的に観測できる事象。喩え、その道が曖昧でも。叶えられなかった先が自らの死でも。私たちにとっては、唯一未来への道標なのだ……


 「そっか……、ちょっとくらい希望的じゃないと解決なんてできないかっ。」 グニィ……!


 吹っ切れた私は笑顔を作る様に両手で頬をつねる。あざができるかもだけど、覚悟の証と思えばそれくらいは構わない。


 「はぁーあ、心も身体もアンタに助けられっぱなしだね。自分同士だと思っても、なんか情けないな…… 」


 「そんなことないし、気にするな。また道の真ん中でわんわん泣かれても困るってだけだ。」


 「それ、情けないって言ってね? 」


 「とりあえずどうする? 家の中探してみろって言われたけど……押入れのアルバムとか漁ってみるか。まだ消えずに残ってるのかは分からんが。」


 「そうだね。今のところはそれくらいしか私たちの過去がわかりそうな物はないか。」


 解決の糸口を掴むために私たちは一階の押し入れを探索することに決める。


 「よし、行くか。」


 「ええ……、 ん? なにあれ…… 」


 階段に向かう前に何となく部屋の中に目をやった私はある物の存在に気づく。


 「どうかしたのか? 」


 足を止めた私を彼が不思議そうに見つめて理由を聞いてくる。


 「あっ、いや……、先に行っててっ。」


 気になりはしたが、重要そうなものには見えなかったため彼には先に探索に向かってもらう。それに気のせいかもしれないし、なんか説明しにくいし。


 「ん……? まぁ、いいや。思いつめる必要もないが、時間がないのは確かだから早く来いよ。」


 「うん、すぐ行く。」


 そう言って、私たちは少しの間二手に分かれる。

 この少しの行き先の違いが、私たち二人がそれぞれ辿る真実への道を大きく違うことになるなんて、思っていなかったのだから……




 

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