紡がれた絆 by 双利
「お前本当に大丈夫かよ。というか何でこっちの道使ってんだ? 探すの苦労したんだぞ……って……」
オサムがこれ以上ないバッドタイミングで姿を現した。
気にかけてくれたのは嬉しいがどう考えても今じゃないだろ。
「……もしかして、お邪魔でした? 」
まだ赤かったのだろうか。
僕たちの顔を交互に見たあと、どうやら状況の雰囲気を掴んだらしい。
その問いに僕はアユリさんの後ろで何度も頷く。
彼女の場合は"そんなことない"とでも言おうとしたんだろうな。
だが"そ"を口にしたあたりで既にオサムは地面に額をすりつけていた。
「マジ、すみませんっしたーーーーーー!!」
まさか同級生にガチ土下座される日が来ようとは。
まぁ、それ相応の大罪を犯したとは思うが。
「いや、大丈夫だから! 私も双利くんもそんなに気にしてないからっ!」
「ああーーー!! いつの間にか下の名前で呼んでるーーー!! ホンットごめんなさいーーーーーー!! 」
アユリさんは必死にオサムを説得するが、僕たちの距離の縮まり具合を感じ取ったのか謝罪の声がデカくなる。
謝罪が謝罪を呼ぶ連鎖状態だ。
確かに土下座レベルのことをしでかした思うが、道の真ん中であることを忘れているようでさっき以上に通行人の注目の的である。
しかし、城下町で制服姿が制服姿に土下座という珍景はSNS映えしそうだな。
ほらイマドキなウチの女子生徒達がシャッター音鳴らしてるぞ。
「オイ、もういいから。恥ずかしいから。悪いと思うならまずその土下座をやめてくれ。この画はこっちが悪者みたいに映ってそうだし。」
そう、ハタからみれば何かしらのミスを犯したパシリが先輩に土下座を強要されているように見えなくもない。というかそっちの想像の方がしやすい。
今やめさせとかないと明日からの僕らの異名は学校イチの人気男子を土下座させたヤンキー男女になってしまう。
僕の説得に応じたオサムはヘコみながらもやっと立ち上がる。
「いや、その、ホント悪かったな、こっからだよな。こっからだったよな。こっからホテ…… 」
「オイコラ、この一瞬で何個ハードル越えさせる気だ? 」
気を遣っているようで全く遣えていない発言に速攻ツッコミを入れる。
個人的にはまだポップ、ステップ、ジャンプのポップの最中である。
最初の軽い一飛びで簡単にゴールテープを切れるとでも思っているのか。
「お前、反省してるならちょっと黙っててくれ。」
このモテまくりで恋愛経験ゼロという俺の中で今世紀最大の矛盾男は、取り敢えず黙らせとかないと何言い出すか分かったもんじゃない。
ほら見ろアユリさんが顔真っ赤にして慌てまくってるじゃないか。
そんな彼女の口が開き始める。
よし、ここで僕たちの健全少年少女さをアピールしてくれるはずだ。
よろしく頼むぞっ。
「そ、そうだよ。だ、第一こんな田舎に、そんな建物なんて…… 」
それ、第一なんですか? アユリさん?
「そ、そこで私が、双利くんと、あ、あんな事や、そんな事なんて…… 」
「落ち着いて、アユリさんも一旦黙りましょう。」
ダメだこの人。まさかのムッツリである。
思春期少年からすると即興奮レベルのすごい事を言ってくれてる気がするが、このままとんでもない事を言い出して僕の中のアユリさんの清楚キャラが崩壊するのは何としても防ぎたい。
……
…………
…………………
僕が二人とも黙らせたせいで誰も喋らなくなった。
ここで話す権限があるのは僕だけである。
何を話そうか。何を話すべきか。
実は最初から浮かんでいる言葉がある。
しかし、それはこの3日で何度も言った。何度も伝えた。
きっと僕の中でも二人の中でもありがたみの薄れた言葉だと思う。
でもこの言葉しか思い浮かばない。
悩んでることに気付いてくれたこと。
救急車を呼んでくれたこと。
目覚めるのを待っててくれたこと。
話を聞いてくれたこと。
邪魔にはなったが知らせを聞いて駆けつけてくれたこと。
これを言いたい理由はこの3日間だけでも数えきれない。
だからやはり、この一言でまとめよう。
「二人とも…… 」
そして僕は
「本当に……ありがとう。」
ありがたみのないありがとうをありったけのありがとうを込めて親友達に伝えた。
「フフッ、その顔。きっとその顔だよ。」
アユリさんが満足気に微笑んでそんなことを言う。
「その顔をお母さんに向けてあげればいいんじゃないかな。」
まったく、またも礼を言わなきゃならないな。
有耶無耶になりかけていた相談の答えをここで出してくれた。
どんな顔だったろうか。
意識していたわけではないため数秒前の自分の顔は思い出せない。
だがきっとそういうことだ。
やっと分かった。
こうすればよかったのだ。
母に向ける感情は最初からずっと持っていた。
当たり前過ぎて気付いていなかっただけなのだ。
だから僕が表すべきは────
僕も回復した。
姉貴や親友に感謝も伝えた。
母の見送り方もやっと分かった。
ならばもう語ることはない。
これでこの物語は終わってもいい────はずだった。
だがここまでがただの序章でしかなかったことを僕たちは知るよしもなかった。
またこの声を聞くまでは……
"さぁ、そろそろだ。そろそろだよ。"
っつ、またかよ。
頭の中に突然声が響く。
いろいろあって完全に忘れていたあの女の声だ。
「またお前か。だから何者なんだ? 一体何が始まるんだよ。」
昨日のこともあってか頭の中での応答が自然にできた。感覚的には相当気持ち悪いが。
"違うよ、終わるんだってば。"
「どういうことだよ。世界でも滅びるのか?」
"まぁ、それに近いかな。"
冗談めかして言ってみたのだが予想外の返答だ。は? 世界滅亡? ウソだろ?
「マジで言ってるのか? そんなことあるわけ…… 」
その疑いの途中で僕は目の前の異変に気がついた。
オサムとアユリさんの全身が突然光り輝いて見えた。
二人がその姿が全く見えないくらいの眩しい
光を放っていた。
どういうことだ?
僕が今感動しているせいだろうか?
いや錯覚にしてはおかしい。
目を擦って見直してみてもこの光景に変化はない。
そしてこの行為でもう一つのことに気づく。
目を擦った自分の手を見ると同じように光を放っていた。
僕の全身も輝いているようだった。
感動して自分も光って見えるなんてのは考えにくい。
それに
「えっ、ちょっ、これどういうことだよ!?」
「な、なに、何が起きてるの!?」
目の前の2人とも自分達の体を見て驚いている。
自分の体の変化に気づいているのだ。
3人同時に同じ錯覚を見ることなんてあるのだろうか?
しかもそれは僕たち3人どころじゃなかった。
僕らの周りにいる学生や会社員らしき通行人にも同じことが起きていたのだ。
そして皆自分の異常に気付いて混乱を見せている。
間違いない。錯覚なんかじゃない。
本当に輝いているのだ。
……で、どういうことなんだ?
本当に光ってるのはわかったがどうして光ってる?
いつまで続く?
どうすれば元に戻る?
世界が滅ぶってのと関係が……
そんな困惑な最中もう一つの変化が起こる。
どちらかと言えばこっちの方が余程衝撃的だった。
体が光り出したことがかわいく思えるぐらいの超常現象が僕たちを襲った。
世界の常識を丸ごとひっくり返すとんでもない事態────
アユリさんとオサムが、二人に分裂した。