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崩壊 without trace



 サァ……

 サァ……


 「そんな……、私たちのスマホが…… 」


 ただ壊れるのとは絶対に違う。明らかな超常現象。

 機体全体に突然ヒビが入って粉々になり、跡形も無く光となってしまった。

 なんとも言えない不吉な消え方だったけど……、これじゃ私をまだ覚えてる人を探し出せない。

 

 「今度はなんなの…… 」


 人類の邂逅

 性別の違う私

 槍使いの襲撃

 人類の回帰

 忘れられた私達


 そして新たな超常、スマホの消滅。


 これまでとは違う人間とは全く関係のない異変。


 「増えたり、消えたり、襲われたり……この世界はどこに向かっているの? 」


 目的がまるで分からない。

 普通に考えれば、この世界が元に戻ろうとしていると思えるけれど、そうだとするなら祇峰フタリをどっちも忘れているのはおかしい。この世界が回帰すべき場所は、合体する前の私の世界か彼の世界の二つのはずなのに……


 「ねぇ、あなたはどう思…… 」


 「分かったかもしれない。」


 「えっ? 」


 こっちから見解を聞いといてなんだが、男の私からの返答はとても意外なものだった。


 「分かったって……何が? 」


 「この世界の終着点。」


 「終着点……ホントに!? 」


 彼の答えに対して驚きが隠せない。

 つまり昨日から何度考えても出なかった答えの一つに彼は辿り着いたってこと。やっと私たち側にも進展があったのだ。この超常原因が分かったわけではないだろうけど、絶対解決の糸口となるはず。

 だからこれは待ち望んだ喜ぶべきこと……のはずなのに、何故か彼の顔は晴れやかでない。むしろ今までで一番深刻な表情をしている。


 「どうしたの? 分かったのって、何か良くないこと……? 」


 重い空気を漂わす彼に私は恐る恐る判明内容を聞いてみる。


 「ああ、もしかしたら……、これまでで一番最悪なことかもしれない。」


 ……ウソでしょ?

 これまでで一番最悪? こんなにも最悪を味わって来たのに? 既に何回も最悪は更新されたのに?

 親友にも、想い人にも、お父さんにも、世界にも忘れられる以上の絶望がまだあるって言うの……?


 「まだ確信は得れてないが……一旦家に戻ろう。多分そこではっきりすると思う。 」ダッ


 そう帰宅することを決めた男の私は早速、家の方向へと走り出す。


 「ちょ、ちょっとっ!! 」


 そんな彼とは対照的に私はさっき号泣したせいで膝をついたままだった。体力も精神も擦り切れかけているのだから、すぐには立ち上がれない。

 そんな女の子をほって行くなんて、やっぱりアイツは薄情な野ろ……



 スッ



 「ごめん忘れてた。立てるか? 」


 「あっ…… 」


 不親切と薄情の烙印を押すところだったけど、その直前に彼は座り込む私の前に戻って来てくれていた。忘れてたって言うのは腹が立つけど。


 「えぇ……、ありがと…… 」 ガシッ


 私は差し伸べられた手を掴んで立ち上がる。

 彼の少し大きい手が同じ人間同士のはずなのに、すごく頼もしく感じる。なんでだろ……


 「行くぞ、急いだ方がいいかもしれない。」 ダッ


 「……うん、分かったっ!」 ダッ


 そっか……、そうだよね……

 どれだけの人が私たちを忘れようと、この人だけはきっと私を忘れない。

 このあとに何が待っているかは分からない。立ち直れなくなるほどの絶望に見舞われるのかもしれない。

 でも何があろうと……


 あの人は私を忘れない。


 私はあの人を忘れない。


 私は……私を忘れない。


 自分同士なのだから当たり前なんだろうけど、そこだけはきっと最後まで揺るがない。

 出会ったばかりの存在だとしても、一人でも私を覚えてくれているなら、それは支えになってくれる。



 私は、まだ倒れずにいられる。


 

 






 ガチャッ


 「ねぇ? ここに何かあるの? 」


 私は一緒に帰宅した彼に目的を問う。

 17年間ずっといたような場所にこの世界を解明する鍵があるとはあまり思えない。


 「ああ。“ある”っていうか、“なくなってる” かもしれな…… 」


 ビシビシビシビシビシビシッ…………!!

 ビシビシビシビシビシビシッ…………!!

 ビシビシビシビシビシビシッ…………!!

 ビシビシビシビシビシビシッ…………!!

 ビシビシビシビシビシビシッ…………!!

 ビシビシビシビシビシビシッ…………!!


 「な、なにっ!!? 」

 「っ……!!? 」

 

 突然、家中に亀裂音が響き渡る。スマホ消滅時のものを大きくしたような音。

 それもひとつじゃない、複数の音が同時に重なって聞こえた。


 「行くぞ!! 僕たちの部屋のはずだ!! 」タッ


 彼は音を聴くなり、靴を脱ぎ散らかして一直線に階段へと向かう。


 「えっ? 私達の部屋!? 」タッ


 全て分かりきっている様な彼の動きに驚きながら、私もその跡を追った。


 ダッダッダッダッダッダッダッダッ……!!

 ダッダッダッダッダッダッダッダッ……!!


 私達は急いで階段を駆け上がり、自分たちの部屋へと向かう。

 しかし、扉を開ける前に私達の目に飛び込んできたのは昨日、私が追い出した彼の手作りベッド。


 ビシビシビシビシビシビシッ…………パリン


 「っ……!!? 今度はベッド……? 」


 「やっぱりか…… 」


 それがヒビまみれになって割れ消える瞬間だった。

 スマホと同様に最後は光となって、破片のひとつも残さずに。


 「ベットだけじゃないぞ。」ガチャッ


 男の私は亀裂音が鳴り続ける自室の扉を開く。そこには……


 ビシビシビシビシビシビシッ…………パリン

 ビシビシビシビシビシビシッ…………パリン

 ビシビシビシビシビシビシッ…………パリン

 ビシビシビシビシビシビシッ…………パリン

 ビシビシビシビシビシビシッ…………パリン

 ビシビシビシビシビシビシッ…………パリン


 「なんなのよ……、これ……? 」

 

 私のベッドからトロフィー、そして割れることなんてあるわけのない漫画や雑誌までの、ありとあらゆる部屋の私物が無数の亀裂に覆われて消えて行く崩壊の光景があった。


 


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