表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

僕と彼女の小旅行

作者: 神崎 月桂

「のどかだね」


「……そうか?」


 放課後、昼下がり。乗客がほとんどいないバスの中、席に座りながら対面の窓に流れる風景を気怠げに眺める。

 特に目新しいものもなく、家か店か、畑か田んぼが映るくらい。


 部活関係の用事で、僕は彼女とともに僕の地元に来ていた。


 ピンポーンと音が鳴り、降車ランプに光が灯る。

 バスは緩やかにスピードを落とす。その慣性で僕の体は揺らされる。トンと軽く肩がぶつかる。

 もちろんそんなの、どちらにも非はないはずなのに、二人してごめんと謝り合って、少しおかしく思えて笑ってしまう。


 バスは止まり、左の方から扉の開く音がした。カツ、カツとステップを降りる音。誰かが乗ってくる気配はなさそうだった。

 プシュー、ガシャ、ブロロ、ブロロロロ。バスは再び走り出した。黄金色の稲穂が窓の奥に広がっていた。


「本当に、のどかだね。この近くに住んでるっていう君が羨ましいよ」


「そう? 特にいいところでもないと思うけど」


 のどか。たしかに田畑はあるにせよ、全体としてみてみればそこまで規模が広いわけじゃないし、住宅街はあるし、なんならゲーセンやカラオケだってある。

 せいぜい田舎寄りの郊外といったところだろう。のどかと言うには、ちょっと弱い気がしなくはない。


「そんなことないよ。自然のあるところで過ごせるだなんていいことじゃない。それに小旅行に来ているみたいでとっても楽しいもん、私。こんなところ、普段こないからさ」


 ああ、そういえば彼女は都会在住だったか。

 僕にとっては見慣れた、ありふれた日常であったとしても。それは彼女にとっての非日常。好奇心をくすぐり、新たな発見をさせてくれる、素敵な場所になるのかもしれない。

 それは逆に、彼女にとっての日常であるコンクリートジャングルと騒々しさが、僕にとっての非日常であるのと同様に。


「そっ……か。そうだね」


 窓の奥を眺める彼女の横顔は、それはもういっぱいの笑顔で。見ているこちらまで、彼女の幸せを分けてもらえるほどだった。


 その表情が、とてもかわいらしくて。

 その感性が、とてもうらやましくて。


 僕は少し、欲しくなった。知りたくなった。

 彼女の、その瞳が、耳が、どんなものを捉えているのか。


 だからだろうか。僕は彼女にこう言った。


「それじゃ、その小旅行を存分に楽しまないとね」


 今日は用事できているから、本当はだめなんだろうけど。

 ちょっとくらいなら寄り道してもバレないよね。


 せっかくの、小旅行なんだから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] おおお! さわかやな……! これからはじまりそうな淡い感じがとても素敵ですね! 大学生なのかな、妄想が広がりそうな物語ですね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ