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霧雨市怪奇譚 霧雨の巫女  作者: 野崎昭彦
第七章 地図から消えた村
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其の八

   †8†

 煌鷹こうようのSUVは山中にひらかれた道を走っていた。

 一旦大間賀(おおまが)に出てから、霧雨(きりさめ)市北部黒尾根(くろおね)村へ。

 そこからさらに山の奥、(みどり)東間(あずま)村へ。

 やがて、大きなダム湖に到達する。

 久崎くざきダム。

 かるたに「理想の電化に電源群馬」と詠まれる、高度成長期に多く造られたダムの一つだ。

 煌鷹はそんなダムに併設された公園の駐車場に車を駐めた。

 夏祭りの際には地域住民でにぎわう公園だが、当然ながら夜も更けた今はまったく人気がない。

 煌鷹が先に立って車を降り、智明(ちあき)をエスコートする。

 二人は公園の敷地内に建てられたドライブインの脇を抜け、ダム湖のほとりに出た。


「それで、これからどうするの?」

「そうだな……。実のところ、まだ何も考えられていない。まさか、彼の理解があそこまで進んでいるとは思ってなかったものでね」

「ふーん、そっか」


 智明の顔に含み笑いが浮かんだ。


「じゃあとりあえず、あたしの考えたアイディア、聞いてくれる?」

「君のアイディア?」

「そ。あたしだって、伊達だて御館様おやかたさまの助手をやってないよ」

「ふむ……。じゃあ、聞かせてもらおうかな」


 煌鷹は湖面に眼を落としたまま、腕を組んだ。


「うん。じゃあ、まずは主人公なんだけどね。ずっと一途いちずな想いを抱き続けてる高校生なんだ」


 智明は話しながら、煌鷹の背後に回る。


「その相手っていうのが、小さい頃から一緒にいる年上の男の人でさ、若くしてちょっとした有名人なんだ」

「どこかで聞いた話だな。さて、どこだったか」

「まあ、いいから。それでね、その彼は妹にご執心しゅうしんで、主人公のことは単なるお手伝いさん、ぐらいにしか思ってないんだ」

「禁断の恋と三角関係か。確かに好きな人にはとても響きそうだ」

「ふふ、ふ……。でしょ? 主人公はだんだんそのことに気付いて、そしてそのことに我慢ならなくなる」


 そこで、智明は話を切った。


「それで、どうしたんだい?」


 煌鷹が振り向いた。

 その瞬間を待っていたかのように、智明が煌鷹の胸に飛び込む。


「それで、ね。結局、彼を独占することにしたんだ。妹にも、他の女にも、二度と触れられないように」

「…………っ」

「あたしの愛……受け取って」


 智明の手には大ぶりのナイフが握られていた。

 その刃が滑り込んだ胸に、赤黒い染みが広がっていく。

 生暖かい、粘度を帯びた液体がどろりと流れ落ちる。

 智明の背後にゆらり、と影が立ち上った。

 ローブをまとい、フードを被ったその影は、手にした本のページをめくると、満足げに口元をゆがめた。

 それを見て、煌鷹は全てを理解した。


「なるほど、悪くない……」


 そのまま、二人は久崎湖に転がり落ちていく。

 水面に浮かぶ白い月輪が、波紋によって刹那せつな、乱される。

 だが、しばらくするとその波紋も消え、湖には元の静寂しじまが戻ったのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ∀・)文体が独特というか個性的でしたね。だけどわかり易くてスラスラと読めるようでした。そして内容に関して言えば、小豆さんがメッチャかっこいいですね。主人公の雅紀君もイイ主人公感を持っていた…
[良い点] 衝撃の結末!いいですねぇ…… 最後ということで、全体的に感想を言います。 ・テンポがいい。地の文は恐らく多い方ですが、説明でも丁寧でありながら楽しく読めます。 ・キャラの個性。今や奇抜なキ…
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