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霧雨市怪奇譚 霧雨の巫女  作者: 野崎昭彦
第四章 黒目様
28/65

其の一

   †1†


黒目様くろめさまの噂、知ってるか?」

「いや、知らないな」

「えぇー? お前なら知ってそうだったのに」


 浅井雅紀あさいまさきが即答すると、磯野一也いそのかずやは大げさに肩をすくめてみせた。

 学期始めの学力テストも終わり、ひとまず日常を取り戻した、そんな秋の日の昼休み。いつものように弁当をつつく雅紀に一也が振ってきたのはそんな話題だった。


「どういう噂なんだ、それ?」

「いや、噂じゃなくてさ、『黒目様の噂』っていう短編のドキュメンタリードラマだよ。怖くて面白いって評判なんだぞ」

「ふうん。ドキュメンタリードラマってことは、実話が元になってるんだよな?」

「あっ、そうか。いや、そうじゃなくてこう、ドキュメンタリー風のドラマ? みたいな感じ。主人公の手持ちカメラで話が進んでくんだ」

「ああ、『時空記者カナメ』シリーズのホラー版みたいなやつか」

「大体そんな感じだな。別にハデな怪奇現象が起こるわけでもないんだけど、背筋が寒くなるというかこう、ゾクゾク来るらしいんだな」

「らしいって、一也お前まさか……」

「まだ観てないっ!」


 一也はふん、と胸を反らして鼻息を吹いた。


「自慢するとこじゃないだろ、それ」

「だって怖いし」


 雅紀はため息をついた。


「お前この前、コーラとポップコーン完備で大爆笑しながら『Oh! バタリアン』観てたろうが」

「それはそれ、これはこれ。ゾンビはあくまで架空のバケモンだろ」


 一也はへへっ、と自分のスマートフォンを取り出した。


「ってわけでさ、一緒に観ようぜ」

「今からかよ? 時間考えろ」

「じゃあ放課後! 放課後にみんなで観よう!」


 特撮ドラマの次回予告のように爽やかな声音で言い放つ一也に、雅紀は冷たい目を返した。


「放課後って、部活はいいのか?」

「うぐっ……。じゃ、じゃあ部活の後……」

「も、無理だな。運動部が終わる頃には日が暮れてる。そんな時間までオレは待たないぞ」

「おのれっ……」


 一也は呻くように言うと、すごすごと自分の席に下がっていった。


「やれやれ、今度は休みの日に、とか言って来そうだな」


 雅紀は一也の次の一手を想像しながら五限目の用意を始めた。だが、昼休みが終わる前に一也は再びやってきた。


「今考えた! 休みの日に観ようぜっ!」

「そんなに観たいもんかなぁ」


 一也の推し方にうんざりして、雅紀は大きく首を振った。


「だって、話題のモンはチェックしときたいだろ。お前だってさ」

「オレは別に、そういう系統のはいいよ」

「あっそう。お前の彼女そっち系だから、てっきりお前も興味あると思ったんだけどな」

「ないない。あと、別に小豆あずきとは付き合ってるわけじゃないし」

「ほう? 夏休みの間に一体なーにがあったんですかネェ?」

「な、別に何もないぞ」

「そのワリには焦っているようにも見えますがぁ?」

「だっ、だれが!?」

「その慌てよう、やっぱり何かやましいコトがあるんじゃないのか?」


 一也の執拗しつような質問責めに、雅紀は何度も首を振って否定した。

 実際にやましいこともないし小豆との仲が進展したわけでもない。だが、それでもネチネチと責められ続けるとなんだか秘密を抱えているような気分になってくるのだから不思議なものだ。


「ないっ、本当に何もないんだってば」

「……まじか? じゃあ、今度の週末、彼女連れてこいよ。それで、みんなで観ようぜ」

「みんなって、三人だけだろ」

「いや、もう一人いる。剣道部の赤尾あかお。ヤツも気になってるけど、怖くて観られないんだってさ」

「じゃあもう二人で観ろよ」

「なんで野郎二人で観なきゃなんないんだよ。ホラーってのは女子も交えないと観る意味無いだろ」

「はいはい、そうですか。ったく、仕方ないな……」


 無邪気にガッツポーズを取る一也の姿を見ながら、雅紀はそっとこめかみを押さえるのだった。

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