其の一
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そいつは異様な姿形をしていた。
手が二本あって、足が二本あるという意味では人間に近い。
だが、青白い皮膚には無数のひび割れが入っており、逆に頭は盛り上がった両肩に埋もれてしまったのか、胴体に顔がついている。
その顔も異様の一言。
目は横に引っ張られるように大きくひきつっており、鼻は穴だけ、大きく裂けた口には乱杭の牙が生えている。
その怪物は下草を踏みつぶしながら、真っ暗な雑木林の中をまっすぐに歩いていく。
目指す先には、湖畔のキャンプ場があった。
もう遅い時間だが、いくつかのコテージにはまだ灯りがついている。
怪物はそんなコテージの一つに遠慮なく近づいていく。
窓から様子を伺うと、中では若いカップルがいちゃついているようだった。
怪物はそれを確かめるとコテージの入り口にまわり、力任せにドアをたたき破った。
「きゃっ!」「うわぁっ!」
カップルは怪物の異様な姿に悲鳴をあげた。
怪物は意に介した様子もなく二人に近づいていくと、無造作に右腕を振った。
それだけで男の方が壁まで吹き飛ばされ、頭から血を流して動かなくなる。
「嫌ぁっ!」
女の方はいっそう甲高い悲鳴をあげたが、すぐに男と同じ目に遭うことになった。
怪物が去った後のコテージに残されるカップルの惨殺死体。
それは、恐怖の一夜の幕開けに過ぎなかった。
次に怪物が押し入ったコテージには親子三人の家族連れが泊まっていた。
父親はコテージ内のものをめちゃくちゃに放り投げたり、振り回したりして怪物に立ち向かい、その間に母親が娘を連れて裏口から外へ逃げ出した。
まだ灯りのついている別のコテージへ向かって走る。
「お父さーん!」
娘が悲痛な声をあげるが、それに構っている余裕などなかった。
一方、父親を始末した怪物は開けっ放しの裏口からコテージの外へ出て、赤く歪んだ視界の中に逃げていく母親の姿を捉えた。
そして、一歩一歩踏みしめるようにして後を追っていく。
母親が逃げ込んだコテージに泊まっていたのは大学生のグループだった。
彼らは母親から話を聞くとすぐに荷物を開けて野球のバットを取り出した。
怪物はもう、そこまで迫っている。
大学生たちは玄関から押し入ってきた怪物に向かってしゃにむに突っかかっていく。
さすがの怪物も多勢に無勢でジリジリと押し返され、ついには闇の中へ逃げ去ってしまった。
一安心する一同。
だが、それは甘かった。まだ、夜は長いのだ……。




