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それから彼は、正しい答えを導き続ける

作者: 影斗

1

「では、問題。いつも車に乗ってるのはナニジンでしょーか?」



 そう嬉しそうになぞなぞを出す、クイズ大好き系女子を横に、俺は本を読んでいた。この教室には俺とこいつ以外にもたくさんいる。なので、是非ともやめていただきたい。


 そう思っていても、こいつは俺が答えるまでここでニコニコして答えるのを待つだろうから、俺は仕方なく答えてあげる。



「エンジン、だろ?」

「大せーかーい!」



 そう言ってこいつは再び、手に持っていた辞書のような本をペラペラとめくり始めた。タイトルは、【小学生の楽しいなぞなぞ】。俺高校生なんだけど。ずいぶん舐められてるな。


 別に、俺はこいつと仲が良いわけではない。ファーストコンタクトからクイズを出されたので即答したら気に入られたというわけである。



「じゃあ、次ね。車がカーブに差し掛かった時に必ず落とすものってなーんだ?」

「スピード」

「また正解!すごいね」



 俺が答えるたびに上機嫌になっていく彼女の名前は山名玲美(やまなれみ)。いろんな人にクイズを出し続ける少し変わった女子だ。


 それに比べて俺は、邪魔にならない教室の端で本を読むという気遣いができる高校生だ。まぁ、友達いないだけだけど。



「ねぇ、岸井君。聞いてる?」



ふと考え事をしてるうちに、何か話し掛けられていたようだ。山名は頬を膨らませていた。



「あぁ、聞いてない。何?」

「だーかーらー、学校祭の部門、どうするのって言ってるの!」



力強い口調で質問してきた。学校祭の部門?そんなのこれしかない。



「照明部門にしようと思ってる」

「岸井君って裏方の仕事ばっかだよね。しかも一人でやる仕事だし」

「うるさい。一人のほうが作業効率は一番良いんだよ」

「嘘だー。協力したほうが早いもん」


そう言って胸を張る山名。どうでもいいところで張り合うな。



「俺は昔から協力という非効率的なやり方が嫌いなんだよ」

「えー、みんなでワイワイできて楽しいじゃん」

「それが非効率的なんだって。やるなら少人数でやりたい」

「じゃあ、今日ラストのクイズね。『かま』は『かま』でも、切る時に躊躇してしまう『かま』ってなーんだ?」

「おい話変えるな。しかも突然なぞなぞかよ」

「いいから早く答えてー」

「急かすな。そうだな……オカマ?」

「違ーう!全っ然違う!もう!真面目な答え考えといてね」



どうやら怒らせてしまったみたいだ。その証拠に、山名の歩く時の足音がいつもよりも響いていた。


 それにしても、最後のクイズが分からない。今までこんなに分からないことはなかったのに。ほんとに小学生に出すなぞなぞなのか?


そんなこんなで、休み時間終了を知らせるチャイムが鳴った。



2

「どうしてこうなった……」



 俺はそう言いながら、教室の後ろの窓側で膝から崩れ落ちていた。いや、これはさすがに大げさだが、俺はそのくらい落ち込んでいた。


これは時を遡ること五十分前。


 学校祭の部門分けを、クラス委員長を中心に行っていた。俺はもちろん照明部門希望だった。しかし、意外にも希望者が多く、じゃんけんで勝った一人が照明部門に入ることになった。


 結局俺は負けてしまった。クイズ対決なら勝てたかもしれないと思ったが、時すでに遅しだった。


 そこからはどんどんみんなが嫌がる部門が残っていった。俺はやっとのことで、消去法で選んだ装飾部門に入れた。しかし、その部門には山名がいた。もう勘弁してくれ。



「あっ、岸井君と同じだ。やったね!それよりも、なんで窓に土下座してるの?」

「全然してねーから。ったく」



 俺は再び二本の足で立った。そして、黒板を見る。照明部門は他の人の名前が書いてあり、装飾部門に俺と山名の名前があった。



「はぁ、よりによって協力する部門に入るとはな。まぁでも、装飾作る時なんかは独りで出来るか」

「また一人で何かしようとする。たまには人を頼れば?」

「どうせ一方的に仕事押し付けられるだけだ。それなら最初から自分でやる」



 「ふーん、そうなんだ」と山名は少し気持ちが落ちたように下を向いた。


 主な活動日は夏休み中らしいので、詳しいことは分からない。夏休み中か。まぁ、どうせ暇なんで文句はない。


 今日はこんな感じで終わるのだった。帰り道の足どりは、とても重かった。



3

 夏休み。普通なら俺は家で、寝たり、勉強したり、寝たり、寝たりしていたはずだったが、山名が突然俺の家に押し掛けてきて、「装飾部門活動開始!」とか言って家から引っ張り出された。


 もちろん、通学中はこいつのクイズに付き合わされた。こいつの片手には新しい本があった。タイトルは、【中学生の面白いクイズ】。やっぱりお前、俺のこと舐めてるよな。



「ある日、五十階建てのマンションに住んでる人の子供がベランダから転落しました。しかし、ケガ一つありませんでした。なぜでしょうか?」



でも、たまに絶対に中学生向けじゃないだろという問題が出される。わざとなのか?



「一階の住人だったから」

「正解!じゃあ次は……」

「おい待て、そういえばその問題前にも聞いたぞ」

「あれ?そうだっけ?」

「一番最初の問題だ」

「よく覚えてるね。私との出会いが印象的だった?」

「ちげーよ。ただお前の記憶力がないだけだ」



するとこいつは、手を横にブンブンと振って否定してきた。



「それはないよー。だって問題を覚えてるんだもん」

「それは嘘だ。ならその本はいらないだろ。あと、次から高校生向けの本にしてくれ」

「一応、この本で難易度の高い問題を選んでるんだけど」



 こんなやり取りをしているとようやく学校に到着した。クイズで言えば「今、何問目?」と言われても答えられないくらいの時間をかけた。学校に着いた頃には汗でびしょびしょだった。



「はい。じゃあ今、何問目?」

「ちょうど五問目」



そんなに時間はかかってなかったみたいだ。



4

「装飾、作るぞー!」

「「おー!」」


 元気な掛け声を口にする山名と、それに負けないように声を出す部門のメンバー。みんな、元気だな。


 俺が驚いたのは、そのメンバーの二割しか男がいなかったことである。ちなみにここには全員で五人いる。男は俺一人じゃねーか。


 もちろん俺がみんなの輪に入れるわけもなく、独りで黙々と作業をしていた。すると、山名が近寄ってきた。長い棒を持って。



「『棒』は『棒』でも、物を盗る悪い『棒』ってなーんだ?」

「泥棒」

「ちょっと簡単だったかな?」

「その棒で何するんだ?」

「この棒に飾りをぶら下げて天井に引っかけたら可愛くない?」

「悪いが、俺にはその感性が分からん。そこの女子に聞け」



 すると、山名は肩を落として女子の輪の中に消えて行った。俺今悪いこと言ったかな。


 そして、周りで部活をしてる人や、違う部門で活動してる人の声が聞こえてこなくなるほどに、時は過ぎた。


 ようやく俺のノルマが終わった頃にふと周りを見渡す。ほんとに誰も居なくなっていた。終わるなら声掛けろよ。しかも置いてくなよ。特に山名。



「どうせ、こうなると分かってはいたんだが、まさかここまでとはな。まぁ、所詮はあいつともこの程度の関係だったってことだな」



そんな独り言も虚しく、長い廊下の先に届かずに消えていった。



5

それから、しばらく同じような日々を繰り返した。山名も装飾部門の女子メンバーに馴染んでいき、俺に声をかけることは少なくなった。その証拠に、日に日に作業効率が良くなった。


 しかし、俺はだんだん孤独を感じ始めた。いつも独りだったのに、どうして突然孤独を感じ始めたのか。そんなもやもやを抱えながら、夏休みは過ぎ去っていった。



6

 そして迎えた学校祭前日。天気は雲ひとつない快晴。まさに装飾日和である。まぁ、活動場所は室内なので関係ないが。


 この日に学校じゅうに全ての装飾をつけるらしい。装飾部門で集まると、そこには女子以外に男子が数人集まっていた。お前ら、夏休み中はサボり魔だったんだな。



「では、各自散らばって装飾をつけてきてください。協力すればすぐに終わります。では、頑張りましょう」



 俺たちに元気を与えるように伝えられた先生の言葉は、俺には全く響かなかった。しかし、サボり魔男子は俺にこう話しかけてきた。



「君さ、一緒に楽なところ先にやっちゃおうぜ」



 どこまでもサボり魔だったが、俺にはとても嬉しい言葉だった。なんだよ。誘われるってのはこんな気分になんのかよ。俺は大きく頷いた。そして、俺は軽くなった足で装飾の入った段ボールを抱えて歩いた。


 それから俺とサボり魔たちは、徹底的に楽なところから手をつけていった。


 女子は、「ここが届かない」だの「これ重い」だの言い、結局はほとんど俺たちが仕事をしていた。女子は男子の楽は認めないらしい。


 こうしてサボり魔たちは、見事一般人へと進化したのであった。


そして、俺も何かのレベルが上がった気がした。



7

 全ての仕事が終わった後、俺は生徒玄関に向かった。学校祭が終わった後の装飾の回収まで、装飾部門には全くと言っていいほど仕事がないので、とっとと帰ろうとした。


しかし、後ろからタッタッタッと大きな足音を立てながら、「おーい」と声をかけてくる一人の女子が来た。山名だ。久しぶりに山名が俺に話しかけてきた。



「今日は久々に笑ってたね」

「そうかもな。今日は久々にやりきった気分だ。てか、お前と話すのも久しぶりだ」

「そんなことないよ。一日一問はクイズ出してたし」

「あれは会話だったのか。てっきり朝のニュース番組に、今日のなぞなぞのコーナーが新設されたのかと思った」

「私はメディアじゃないから。それでさ、前に出した答え。分かった?」

「なんかあったっけ?」

「覚えてないの?ほら、『かま』は『かま』でも、切る時に躊躇してしまう『かま』ってなーんだ?ってやつだよ」

「だから、オカマだろ?」

「違うってば! もうバカ!バカバカ!」



そう言いながら、俺の胸をグーでポンポンと殴ってきた。その時の山名の顔は、どこか嬉しそうだった。


あぁ、答えなんて分かってるさ。躊躇するのは、縁を切ることと、裏切ることだろ?答えは、『仲間』ってことだ。


さあ、明日は学校祭だ。

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