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ユア君とワカメ

「付いて来な」

そう言うと、ユア君が木に何かを語りかける。すると木はお辞儀をして、太い枝を地面に降ろした。

凄い!これがユア君の魔法…!

ユア君の魔法に圧倒された私は、口元を手で押さえて、鼻息を荒くした。ユア君に続いてノイが枝に乗り、私に向かって手を差し出す。

「お手をどうぞ、姫」

「ありがとう!」

こんなイケメン男子に、お姫様扱いなんかされちゃあ、照れちまうぜ。

内心グフグフ笑いながら、私は照れ臭そうにエスコートをしてくれたノイにお礼を言い、一番枝が太い所に座らせてもらう。木登り(?)なんて久しぶりかもしれない。私もユア君を見習って木に

「ありがとう」

と言うと、木が嬉しそうに揺れた。

やっぱり木にも感情があるのね!

私が木にぶつかるたび、謝っていたのは無駄ではなかったのだ。ふふん!

「2人共、俺に掴まった方が良いよ」

多くの植物を従え、優雅に木に腰掛けるユア君が、人差し指をクルクル回す。ああやって、木に合図を出しているんだろう。木の枝がユラユラ揺れ始めたので、遠慮無くユア君の服を握り締めた。

「それじゃあ、危ないよ」

と言われ、後ろから肩をギュッと抱きしめられる。

何じゃ、このイケメンは…。

恥ずかしいので、ユア君にバレない程度に、モゾモゾして距離を取った。

「ほら、ノイ君も」

「断固拒否する」

「あっそ?」

フグみたいな顔でプイッとそっぽを向いたノイに、ユア君が呆れた顔をした。面白い光景が観れると思った私はガッカリだ。

「ユア君に無礼な態度を取るなんて、許せないわ!」

と言う様に、木がバサバサと揺れ出し、ノイを地面に落とした。

「イデェェェェェエ!!!」

「パティは、ノイ君みたいに馬鹿な事をしたら駄目だからね」

「…はい」

私は、モゾモゾするのを止めた。



改めて、真ん中にいるユア君をみんなでギュッと抱きしめる様にして座った。

「頑張って付いて来なね」

「はい!」

「それと、舌を噛まない様に」

「それって」

どう言う事?と言おうとしたら、思いっきり舌を噛んだ。逆バンジーの様に木がしなり、飛ぶ鳥を落とす勢いで空に打ち上げられた。実際に飛んでる鳥にノイが衝突した。普段あまり笑わないユア君が大声で笑い出し、村中の木の枝がウォータースライダーみたいに私達を運ぶ。

ユア君が、夏でも長袖長ズボンな理由が分かった気がする!

「イタイ!痛いっ!あだ!あばばばば!」

木の枝が服に引っかからないのが奇跡だよ!

「大丈夫かパヘブ!」

ノイが舌を噛んだらしい。

「あははははははははははははは!!!」

ユア君が大笑いする。

村で度々 目撃されるUMA(ユーマ)は貴様か!!!

妖怪タカワライ三人衆は、木の枝の上をバサバサ滑って、最後に海まで来た。海抜20mの位置まで、放り出される。

「どんぶ!」「怖ぶ!」

2人同時に舌を噛んで、落下した。


お父様、お母様、先立つ不孝をお許し下さい。


2人分の悲鳴+愉しそうな笑い声を連れて、落下速度は増していく。

海に落ちる!

と思った寸前に、黒い大きな影が私達の背を覆い隠した。ガラスが割れそうな高い音を立てて、

「プテラノドンでごわす」

と言いそうな鷲が私達を掴んで背に乗せる。

「良い子だね、パティ」

「いやぁ〜んっ!ありがとう!」

ユア君に褒められた鷲が、クネクネして喜んだ。

この鷲の名前はパティと言うらしい…。何故だ。




パティ君に乗る事、約5分。(体感)

着いた場所は睡竜島。

名前の通り、龍が眠ってるような形をしていて、200年程昔に、ノイが愛して止まないツモイ=ナラブ先生がドラゴンを封印したらしい島である。

普通の島と材料(?)が違う所為か、ここに生える木は極彩色で、目がチカチカする。

私的には、こんな色で光合成とか出来るの?思うのだが、植物たちは皆元気そうで、珍しい生態系の所為か、大勢の学者がここを訪れ、研究をしているらしい。

そんな事は一般庶民には関係ないので、専ら観光スポットとしての機能が高いが…。数百km離れているが、私たちの村に一番近い観光地と言える。要は、都会度が高い!

来て良かった!!

鷲の背からウキウキと、

あの花、アクリルか水彩で描きたい!

とか、

あの植物、バナナっぽいけど食べれんのかな?

とか、思う。

例によってノイにエスコートされてパティ君から降り、砂浜の波が来ない場所で待機する。知らない場所に来て不安です!という顔で辺りをキョロキョロ見回すと、フラミンゴピンクのカニが歩いていた。

うっひゃぁ!カニが居やすぜぇ!今晩のご馳走にしてやろうや!ゲヘヘヘヘ!

2人にバレない様にカニを捕まえられないか、画策する。

「パティ」

「……はい」

私がソワソワしているのに気付いていたらしいユア君に、耳をチョンチョンと触る合図で注意された。

むーん、ここに来る前は真剣な話をする雰囲気だったのを忘れていた。

周囲の安全確認を終えたユア君が、パティ君を労う。

「ユア〜!帰りも私に乗・る・の?」

「ふふふ…。そうだね。俺ね、パティなら俺の必要な時に、いつでも飛んで来ると思ってるよ。いつもありがとう」

その、どうとも取りにくい返答良くないぞ!

ユア君の返事には

「お前は都合の良い女(男?鳥?)」

みたいな副音声が付いている気がする。パティ君が可哀想だ。

そんな曖昧に返事をされても、指示を守る側が大変だぞ〜。

私は馬鹿だからか、YESかNOで答えて欲しいと思うんだな。パティ君は、そうでは無いらしいけど。

この返答からでも、ユア君のユア君らしさを感じると思いません?むん。

「うっふ〜ん!ユアがそこまで信じてくれてるなら、私頑張っちゃう〜!絶対にユアが必要と思ったタイミングで飛んで来るから、信じて待っててね!」

「うん。俺、パティのそんな所が可愛いと思うし……。好きだなぁ」

うわぁぁぁぁ!!!ほらほらほら!こいつワザと「好き」って言うの溜めやがったぞ!ユア君ってば、ドチャクソ胡散臭い顔してるし!!ホストみたいな事 言って、パティ君を完全に掌握してるよ!悪だよ!この男、凄い悪だよ!

ユア君がパティ君にお礼を言うと、パティ君は尻尾をフリフリ、ハートと一緒に飛んで行った。夕日に消える黒い影を見つめていると、潮風でスカートがめくれそうになる。

あぁ、夕日が泣いている…。

先程までの熱い会話は無かったかの様に、平然とした態度のユア君が振り返った。

「さて。俺がツモイ先生に、ニホンへ招待されているのはご存知だよね?」

「ぁ?」

ノイのコメカミがビキィッと割れる。男子達の険悪な雰囲気を感じ、コッソリ距離を置いた。(ユア君と関わるのが嫌な訳じゃない。優しい私が、人を避ける訳がないのだ。マジで)

「自慢かよ」

「事実だよ」

ノイがギギギッと奥歯を噛んだ。

私はワカメを振り回していた。

「どうして俺が、ツモイ先生の目に留まったと思う?」

ユア君が先程、パティ君の飛んで言った方角を見た。つられて目を凝らせば、遠くの空にポツリと浮かぶ島がある。

『雲よりも高いニホン』

その名の意味は、伊達じゃ無い。

「ワザワザ言わせるあたり、性格悪いのが滲み出てるんじゃねぇの?魔法の才能があったんだろ?」

「驚いたなぁ!性格が悪いだなんて初めて言われたよ」

「いけしゃあしゃあと!」

ノイが、お風呂上がりのお猿さんみたいに、ムキーッ!と赤くなる。対するユア君、2歳年上の余裕。大きな倒木にもたれかかって、ニヤニヤしている。私はワカメを振り回している。

前々から思っていたけれど、この2人って、どんな関係なんだろう。

「変だと思わない?あんな辺鄙な村に魔法が使える者が生まれる事も。ツモイ=ナラブがやって来る事も」

むーんん?

ワカメが手から、すっぽ抜けた。ユア君の至極色(深い紫色)の髪がワカメグリーンになる。

ノイが言うには、私も魔法少女的な存在らしいんだけど、あんなド田舎には魔力を持つ者が生まれるはずがないと。確かに、付近の村には1人も居ないよね。偶に他の村から頼まれて、ユア君が出張しているのは、みーんな知っている。ユア君の態度から察するに、自分が魔力を持ってるのには確実な理由がある。

多くの人に望まれて生まれたのならば、=トーキョー出身(ど田舎)では無い。と思った方が良いのかな?

だとすると、魔力を代々持ってる家は有利だし、ツモイ=ナラブが見に来る程の身分ある者の息子とか?

「パティ!逃げろっ!!!」

「のん?」

ノイの声を辿ると、ノイは木の檻に捕まっていた。その前には、ワカメを地面に叩き付けるユア君がいる。彼の上品さ24時間年中無休のスーパーマーケットは、100年ぶりにシャッターを下ろしたらしい。店主の嘲笑う顔が見える。

「俺、女の子は殴らない主義なんだけどさぁ…ワカメは苦手でね。俺は殴らないと思うんだけどさぁ…」

島が毛を逆立てる様に威嚇を始めた。ユア君に同調する様に、木が有り得ない揺れ方を始める。

「ご、ごめんなさ…い」

「素直に謝る子は好きだよ!」

プラスの言葉が、プラスに聞こえない!

ユア君が地面に叩き付けたワカメが、踏み潰された。いつも仏顔で笑みを称える細い目が、阿修羅の様な眼力でカッ開く。

「あわわわ…!」

ユア君の後ろにバズーカを持った般若が!!!

「ワカメはどうにもねぇ………」






この後の記憶があんまり無い。





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