俺とユア
魔力持ちとは。
そもそも『魔力』とは。
俺が習い知る限りでは、魔力とは影響力だ。
俺が一番好きな説では、魔力を陰と陽に分けるものだ。
自然界にはそれぞれ番号が振られており、例えば…牛だ。
牛の番号が5とする。俺の番号は1な。
俺がモウを持ち上げようとすれば、俺はモウに負ける。5と1を比べれば、圧倒的に俺は5に負けるからだ。
俺が牛を持ち上げるには、あと4人の人間に協力してもらわなければならない。
この場合の計算式は、5−(1+1+1+1+1)
それに比べて、パティの番号も1とする。
しかし、パティには4の魔力がある。
するとパティは、1人で牛を持ち上げられる。
この場合の計算式は、5−(1+4)
パティは生まれながらにして、4人の人間に協力してもらえている状態だ。
パティ、凄い!パティ、最強!パティ、イェイ!
流石は俺のお姫様だ。もっと褒めてやっても良いんだぞ?
俺の説明、分かるかな?
なんなら宗教的観点から見た魔力とか、魔力の根源とか、魔力持ちが生まれる事についての最も有力な説について話したい所だが…。
俺は授業するの好きだけど、みんな嫌がるからな〜。
俺の考えた説も発表したい所だが、パティを村長の家に連れて行くまで掛かる時間を考えると魔力持ちが生まれる事についての最有力説だけに絞って説明しよう。
なんたって、これから会いに行く茄子頭の説明も省ける。
ネイ王国の魔力持ちは国民の約1割。
10人に1人は魔力を持っている事になる。
しかし、この村にいる魔力持ちはパティを含め2人。約0.0003%になる。
『魔力持ち』とは別名『望まれた子』。
100年程前の1500年には、魔力は血脈によって受け継がれる説や、高貴な者に宿るという説、神に選ばれた者が持つという説が有力だったが、そうなると魔力を失う者が出る事や平民などにも魔力持ちが生まれるのかという事への説明がつかない。
そこで天空国家ニホンの最高指導者であるツモイ =ナラブ先生は『人気者とか主人公って、やたら高性能だけどソレはみんなに期待されてるからじゃね?説』を唱えた。
ツモイ先生曰く、
魔力とは影響力である。影響力とは、人や物に作用する力である。人や物に作用する力を発するには、人や物に作用する存在である事が必要である。
故に、人口の多い都市にいる王侯貴族の方が魔力を持ちやすい。
魔力を持つ条件とは、
超えなければならない一定の数量−({母体の子に対する期待(又は、両親の子に対する期待)の2乗}+周囲の期待)=
プラスの数字の場合は、魔力無し。
釣り合って0の場合も、魔力無し。
マイナスになって初めて、魔力有り。
である。俺が言うんだから間違い無し!
と。
俺が尊敬するツモイ=ナラブ先生の言う事だから、間違い無い。
ツモイ先生万歳!
俺が心の中でツモイ讃歌を歌っていると
「ノイ」
「ん?」
パティが俺のズボンを引っ掴んでズリ下げた。
なんちゅー!?
大慌てでズボンを腰に上げ、パンツ丸見えを回避すると、申し訳無さそうなパティに謝られる。
「ごめんなさい!転びそうになって…」
「ワザとじゃ無いなら良いんだ。次は気を付けろよ」
「ありがとう。ごめんね…」
「気にするな!」
しおらしい様子で俯くパティの頭を撫でてやると、パティの頬が少し赤くなる。
この態度が可愛いんだよ!パティは計画の為にも、絶対にっ!このままの状態で育て抜くぞ!
俺が新たに闘志を燃やしていたら、木の上から嫌な感じのクスクス笑いが聞こえて来た。
嫌な予感…。
「そうだった!ユア君達が…」
パティに促され左上を見る。複数の足がぶら下がっている。俺の表情筋が、棺桶にダイブしようとした。
落ち着け、俺!
俺は引き攣る表情筋をアメとムチ作戦で、強引に笑わせ
「よぉ」
と軽い笑みを作った。向こうもニコリと軽い笑みを作る。
「ヤッ!今日も機嫌が良さそうで何より」
俺と目が合ったユアが、外側にハネた紫色の髪を指でクルクル回しながら、細い目を更に細めた。
彼こそが、俺がパティと訪ねようとしていた村長の息子で、村で唯一の魔力持ちだ。
ご覧の通り、凄くモテる。
しかし、女運は悪いだろう。ザマァ〜!
ユアの周りには同じクラスのフローラ、リリィ、ルカ、キャシー。高慢、便乗屋、狡猾、怒鳴り屋、最悪のカードが並んでいる。村一番の金持ちフローラを筆頭に、びしょ濡れの俺とパティを見て、お上品ぶったクスクス笑いを漏らす。
今日もユアのハーレム軍団は絶好調の様だ。
ユアと内密な話(全然 関係ねぇけど、内密って何となくカッコイイよな!)をする為、まずは五月蝿い外野を散らそう。
「うわー。汚ねーなー。漏らしてんじゃねーよ。パンツ丸見えのコッチの身にもなれってのー」
棒読みなのは、ご愛嬌。
俺が鼻をつまんで手をパタパタ振ると、五月蝿いハエ諸君はギャーギャー、ブンブン、喚き散らす。
「いやいや、嘘じゃねーって。な?パティ、彼奴等のパンツ汚ねーよなー?」
「え…」
パティが頬を赤くして目を逸らした事により信憑性が増したのか、うるさい鳥共が変態だ何だと罵りながら、ノソノソ木から降りて来た。パティが気不味そうな顔で俺の背中に隠れる。
「オホホホホ!フローラちゃんにパンツなんて存在しないのですわ!だからギリギリセーフですわ!」
いやいや、ギリギリも無くアウトだろ!
先週、授業妨害してまで自慢した最高級かつ最先端の服を木の枝に引っ掛け、半泣きになった所をお付きのクソ共に何とかしてもらったフローラが、恥ずかしさを隠す様に腕を組む。
「金の亡者が何をしにいらしたの?そんなチビのブリっ子連れて、フローラちゃんに近寄らないで下さいな!ちょっと可愛いフリをすれば、みんな騙されると思ってるのかしら?気持ち悪いですわ!髪も土みたいな色してて、汚らしいですし!フンッ!目に入るだけで吐いちゃいそう!これ以上、フローラちゃんに近づかないで下さいな!プンプン!ダサいのが移ったら、大変だもの!」
「本当本当!フローラ様の言う通りよ!泥臭〜い!ソレに服も破れてる!これだから貧乏って嫌なのよ」
「だね!育ちの違いだね?パティちゃんなんか、美人なフローラ様には…いや…あの…美人…。うーん…。パティちゃんとフローラ様かぁ…。ちょっと勝ち目が…」
「ルカ!貴女はバカなんだから黙ってなさい!」
「はーい…」
キャシーに怒られたルカが、ションボリして口を塞いだ。
俺、この集団の中じゃルカが一番好きだわ。
俺の小さな呟きに同意する様に、パティがウンウン頷いた。その様子を見て、ユアが品のある仕草でクスクス笑う。彼は木から降りる為、木に何かを語りかけ、お辞儀をさせた。
何時見ても、ド田舎に住む村長の息子には思えない出来だ。
木の枝から優雅に降りるユアを見て、思う。
色々と妬ましい事もあるが、この茄子頭の魔法がツモイ先生に見込まれ、ニホンに招待されたのは良い事だったんだろうな。
とは言っても、寝る前にユアの家に向かって呪詛を吐く習慣は止めない。プチ不幸にするのも、同様である。
「お前、こんな奴等連れ歩いてよくも恥ずかしくねーよな」
「それな!」
俺の言葉にユアが同意した瞬間、女子共の視線が世界の終わりに降り注ぐ、破壊光線の如き光を発した。女子4人に睨まれて、余裕を100年分は備蓄しているユアも、流石に顔を引きつらせる。
「あはは、なんちゃって。ははは…」
ハーレムの主様も、ご苦労な事だ。
「はぁ…」
ユアが瞳を閉じると、ガラリと雰囲気が変わった。普段のクラゲみたいなフニャフニャした感じが抜けて、レベル100のクラゲみたいな顔になる。
「フローラ、ちょっと黙ろうか。君には、その唾液噴射機みたいな口を噤んで、慎ましく生きる努力が足りてないみたいだね。君達、パティを見習いな。今から俺とノイ君は大事なオハナシがあるからね。俺が君達を家に送るまで、彼処で綺麗な景色でも眺めてなよ」
「わ、分かりましたわ…。行きますわよ!」
ヤレヤレだぜ…。
女子軍団はユアの気迫に押されて、バタバタと去って行った。
あの潔い所は、嫌いじゃないな。うん。
「それで?俺から村長の座を譲り受ける人間が、女の子連れ回して、何してんのかな?」
テメェが言うなよ!
と、激しくツッコミたいが、俺とユアの関係は完全に上下が分かれているので何も言えない。大人しくパティを背中に庇いながら、
「相談があんだよ…」
と言った。
「相談?ノイちゃんは、問題を解決する能力が無いと見なして良いのかなぁ?」
チクショ〜!
俺の頭の中にいる小さな俺達が、地団駄を踏んで悔しがった。
何時か(正確に言えば11年と7ヶ月後)見返してやるからな!!!
俺は結構な爆弾を落とすつもりで、腕を組んだ。
「今回は畑違いだっただけだ。パティが魔力持ちだったんだよ。お前の知る限りで良いから、魔法について聞きたい」
「あぁ、知ってたよ。たぶん。その時が来るのを待ってたよ」
「どういう意味だよ」
ユアの細い目が更に細くなった。黙れと言いたいらしい。俺が口を閉ざすと、ユアが満足そうに頷く。
「付いて来な」