4話
前書きという程の物はありません。
「...危ないところを助けてもらって、ありがとうございます」
戦いの熱はとっくに冷めていた。
それから暫く経った。ようやく落ち着いた様子で、少女は感謝の言葉を口にする。
「気にすんな。あんなのは遊びみてぇなもんだ」
男は、事も無げに言いながら大剣を背負った。背負い方はシンプルで、切っ先を受ける革のホルダーに差し込んだ後、留め具のついたベルトで固定するだけだ。背中に心地よい重みがかかる。
手持ち無沙汰の手でガシガシと頭をかきながら、男は少女に質問を投げかけた。
「お前、名前は?」
「私はモーントと言います。呪術師です」
「呪術師?」
男は首をかしげる。
「...もしかして、ご存知無いでしょうか?」
先ほどまでびくついていた少女の目が、意外そうに見開かれる。
「いや、そういうわけじゃないんだけどよ...」
呪術師。言葉としては知っていた。自分に関する事は、厳重に錠がかけられたように思い出せなかったが、やはりこういった言葉は思い出せるようだ。
「...なんつーか、アレだろ?人を呪ったりとか、呪文唱えると木が一瞬で育ったりする...」
「うーん...ちょっとそれは...違いますけど...」
だが自分の口から出てきた『呪術師』は、まるで子供の認識といった風の表現だった。困ったように眉をひそめる少女を見て、男は胡乱げな目でため息をつく。
(...記憶無くす前の俺って、何やってたんだ?)
男は落ち込んだ。記憶を失う前の自分は、きっと粗暴で無知な人間だったのだろう。
「気にしなくても大丈夫ですよ。呪術師は昔よりも殆ど数が減ってしまったみたいなので...。王都の人たちでも、実際に見たことのあるという人は少ないと聞きます」
自分よりも幼そうな少女の擁護が胸に刺さる。男は顔をしかめた。
「...ところで、貴方のお名前は?」
「あー...名前なぁ」
どうしたものかと、男は頭を捻らせた。モーントが不思議そうに問い掛けてくる。
「...どうかしました?」
(...隠しても仕方ねぇ、か)
男はため息をついて言った。
「覚えてない」
「えっ?」
「覚えてないんだよ。自分の名前も、生まれも、自分に関わることは全部覚えてない」
キッパリと言い切った。
「そう、なんですか」
(...ま、こういう反応になるわな)
答えに詰まり、押し黙ったモーントを見て、男は話題を変える事にした。
「...それより、ちょっと聞きたいんだけどよ。ここは何処だ?」
「ここは【自由の森】というところです。王都の【エオクシア】からは少し離れてますけど」
「自由の森に、王都エオクシア、ねぇ...」
今度は男が知らない単語だった。初めて聞く地名を、飴玉を口で転がすように呟く。それを最後に、2人の間に沈黙が訪れた。
(どーしたもんかね)
男は空を見上げ、今後の身の振り方について考える。
まずはエオクシアに向かうのが堅実な選択だろう。王都と言うだけに、人も集まってきやすい。必然的に情報も集まるだろう。そこで記憶を取り戻す方法を探るしかない。
(けど...)
そこまで考えて、ふと男の頭に疑問が浮かんだ。
(記憶を取り戻して、その後はどうする?)
もし記憶が戻れば、自分の故郷や、もし居るなら親しい人間と再会出来るかもしれない。だが、そう簡単に記憶が戻る訳では無いだろう。少なくとも数年はかかるに違いない。
男は、地面に倒れた巨人を見つめる。
こんな化け物が闊歩する世界で、自分が記憶を取り戻すまで、待っている人間は居るのだろうか?
(...バカバカしい、悲観はやめだ。その時はその時だろう)
男は頭を振り、嫌な想像を振り払った。
まずはエオクシアに行く。そこまで考えると、男は踵を返そうとする。
「んじゃ、そういうわけで...」
その時だった。モーントが顔を上げ、意を決したように叫んだ。
「あの!」
男がモーントの方を向く。目と目が合った。彼女の薄く灰みがかった瞳が、まっすぐこちらを見据えた。
「お願いします。お礼なら出来る限りの事はします。だから...」
そこまで言うと、少女は深々と頭を下げた。
「私の村を、助けてください!」
後書きという程の物もありません。何を書いたものか...。




