2話
毎日投稿しますとはなんだったのか...。
「はぁ...」
アイーダは騎士としての生活を疎んでいる訳ではない。むしろ給料をたくさん貰え、適度に暇もある騎士団は、平民上がりのアイーダにとっては夢のような職だった。
だが、それでも。自分の置かれた状況を憂う気持ちを乗せ、アイーダは叫ぶ。
「でも、だからって言って、本を運ぶ為に騎士団に入ったわけじゃないんですけどー!」
「きゃっ!何よアイーダ、いきなり大声出さないで!」
「あっ、ごめん、サラ!」
隣でアイーダよりも多く本を抱えるのは、同じく平民騎士のサラ。アイーダは少し前に王都【エオクシア】にやってきた新参者で、王に直接召し上げられた、いわゆる『身内』ではなく、外様の騎士。一方サラは、教会から直々に推薦されて王の叙勲を受けた『エリート』だ。
「まったく。アイーダはいっつもわたしをからかうわね」
「ごめんごめん。悪かったってば」
だがアイーダがここへやって来た夜の歓迎会で何故か意気投合し、今ではこうして王女様の本を運ぶ役目まで一緒にやる仲になっている。
「...人生って、不思議だなぁ」
「なぁに、詩人ぶっちゃって」
「なんでもー。それより、サラも思わない?」
え?と首をかしげるサラ。頭の動きに合わせて赤毛が揺れた。
「仕事よ、し・ご・と。確かにお姫様の本を運ぶのも楽でいいけどさ?たまにはこう、ガツンとしたおっもーい仕事が欲しくない?」
「...重いものなら持ってるわよ?」
「そうじゃなくてー!なんていうか、巨人とか、小鬼とか、そういう脅威から民衆を守るのが栄えある騎士の務めなんじゃないのってこと!」
「あー...」
合点がいった、という様にサラが頷いた。
「まあ、こうやってお姫様の読まれる本をお運びするのも、王に...王家に仕える身としては大事じゃないかしら?」
「うー、それを言われるとそうなんだけどね...もっとこう、人々のためにー!みたいな事があると思うんだけど...」
「...なーにくっちゃべってんのかしらー、お・ふ・た・り・さん?」
「うわぁぁあっ!」
今度はアイーダが、先ほどのサラ以上に驚く番だった。対してサラは、声の主を見て、落ち着いて返事をする。
「副団長さん、こんにちは。休憩ですか?」
「そ、訓練のね」
そう言って、副団長のシーラはアイーダが抱えている本を見て...ため息をついた。
「またカルラのお姫様が?」
「そうなんです。『飽きたから次の本が欲しい』、なんておっしゃって。1ページも読んでらっしゃらないのに」
「いちいち【書院】から本持ってくる私たちの身にもなって欲しいもんですけどねー」
「アイーダ、あんたもそういう事大声で言わないの。ただでさえ外様なんだから、目の敵にされるわよ?」
「はーい...」
意気消沈するアイーダ。そんな彼女を見かねてか、シーラは苦笑しながら言う。
「...ま、どうしてもって言うなら、面白い仕事回してあげてもいいわよ?」
「ほんとですか!?あるんですか!!やりますやります!!!サラ、これ持ってくから!」
「あっ、アイーダ!?」
目を太陽のように輝かせ、アイーダはサラの本を奪い取る。サラの制止も効かず、アイーダはあっという間に廊下の向こうへと消えていった。
「元気ねぇ」
「あはは...お陰様で」
サラは乾いた笑みを浮かべるが、内心戦々恐々としていた。アイーダはまだこの副団長のことをよく知らないだろうが、自分はよく知っている。赤黒く染まった鎧と武器、そして彼女の扱う魔法と、彼女自身の性格。数々のモンスターを狩り尽くす『血纏いのシーラ』の物語は、あまりにも有名だ。
「あの分なら、私の訓練に参加させても良さそうね」
...そして、訓練になると1人で部下全員を相手取り一歩も引かない、『鬼の副団長』としても、騎士団の間でもっぱら有名である。
「サラ、貴女も参加する?」
「お、お手柔らかにお願いします...。ところで、アイーダに任せるお仕事、というのは?」
シーラは応えた。
「あぁ、それね...。税を納めてない村がひとつあって、そこを調べてこさせようかと思ってね。ちょうどあの子の出身地みたいだから、一緒に連れてくと話がしやすいでしょう?」
「...副団長が自ら出向かれるのですか?」
そうよ、とシーラ。サラは驚く。
「税の催促だけなら、アイーダと数名で良いかと思いますけど...。あっ、もしかして...」
「つまり、それだけじゃなさそう、ってことよ」
サラは合点がいったという風に頷いた。シーラは続ける。
「単に税を納められない状況なら、すぐに使いを送るのがスジ。仮にも騎士を輩出した村なんだから、そのへんはしっかりしなきゃアイーダの評判にも傷がつく。だとしたら、村に何か異常が起こってるということだと思うわ。例えば、疫病とか」
「心配ですね...」
「そうね...貴女も来る?」
「良いのですか?」
「もし本当に何かが起こっているなら、アイーダと仲良しの貴女が居た方が都合が良いわ。彼女が落ち込んだ時は、側に居て励ましてくれる?」
「...はい!では、失礼しますね!」
「ん、ご苦労さま」
サラはアイーダの後を追って、早歩きで廊下の向こうへ消えていった。見送ったシーラは、ぐっと伸びをして呟く。
「......ただの疫病なら、良いんだけどね」
とにかく頑張ろうと思います。




