3話 おっさん自分をクリエイト
赤い箱に触れた。
箱は何の前触れもなくバラバラになった。
それと同時に俺の意識もどこかに飛ばされたような感覚に襲われる。
一瞬にして切り替わった視界に映ったのは正方形のグレーの物体。
それに触れるとぐにゃりと何の抵抗もなく形を変える。
・・・まさかこれを捏ね回して作れって言うんじゃないよな?
一瞬そのような事を考えるが間違いであることに気が付く。
グレーの物体の近くに説明書きがあった。
それにはこの物体を両手でつかんでなりたい自分を思い浮かべれば良いだけらしい。
早とちりして化け物を作り出すところだったと反省したのち、両手で振れる事にした。
そして想像する。
なりたい自分・・・なりたい自分・・・なりたい自分・・・
お金持ちの自分だったり異性にモテまくる時分だったりマッチョな時分だったり頭の良い自分だったり・・・
”結局俺じゃねーか!!!”
どうやら俺と言う奴は欲が少ないようで、イケメンにも美女にでも何ならショタっ子ロリっ子にでもなれるこのチャンスでも元の自分の姿ばかりが浮かぶらしい。
思い浮かばないのは仕方がない。
自分自身の姿を頭に浮かべる事に。
と思ったのだがよくよく考えてみたら自分の顔もおぼろげだぞ?
そうだよなぁ、だってここ数年顔がやつれててどれがまともな顔だったか判らなくなってたもんだもんな。
悲しいかな社畜の性よ。
思い出せるのは頬がげっそりと痩せこけて目の下に大きな隈をぶら下げた血色の悪い顔。
流石にアイキャンフライ!した上であの顔をデフォルトにするのも悲しいものがある。
とは言っても社畜前の顔が思い出せないから困った。
結局必死に社畜前の顔を思い出す作業となってしまったのであった。