本日の一冊 「食語のひととき」
「食語のひととき」【毎日新聞社】
早川 文代著
「今日食べたイカのさしみ、超うまかった」
「あそこのトンカツ、マジでサイコー」
「これ、なんかビミョーな味」
息子が話す横で、あいづちをうちつつ、少々笑顔がひきつってしまう。
―おいおい、我が家の文系男子よ。
もうちょっと、マシな表現を使ってくれよ~。
本書は、そんな気持ちにぴったりこたえてくれる内容だ。
著者は食品の分野で働く研究員。
食の言葉について、長年調査を続けるうちに、言葉は物の様子だけでなく、言葉を使った人の様子、社会の様子、文化の様子をも伝えているということに気づいたという。
さまざまな言葉の例を挙げて説明している。
例えば……。
「シャキシャキ」
生のキャベツやもやしのように、繊維と水分をたっぷり含んだ新鮮野菜などに使われる。これは食べるときの音だけでなく、江戸時代以来、引き継がれてきた小気味のよさや、軽快さも表している。
「ふわふわ」
空気をたっぷり含んで、やわらかくふくれたパンケーキ、マシュマロ、オムレツなど。
そのルーツは古事記であり、布が風を含んでたなびくという意味の「布波」にあるのではないかとされている。
「こっくり」
もともとは深みのある上品な色合いをさす。それが色合いだけでなく、味の深みを表すようになる。
「こっくり煮込んだ煮物」「シチューのこっくりとした味わい」など、色や味の上品な深みの表現は、深まる秋の季節によく似合う。
以上はほんの一部をかいつまんで紹介したもの。
他にも「まったり」「こんがり」「まろやか」「えぐい」「ぷりぷり」など、百二十もの食表現が、そのルーツとともに、ていねいに紹介されている。
これは知らなかった!ということばかり。
食後に、食語のひとときはいかがでしょう。
と、ここまで書いたところで、遅い夕食をとっていた息子が、ハンバーグに舌鼓をうちながらひと言。
「おかあさん、このハンバーグの味、ヤバい」
ハ~ッ。
息子よ。貴方の表現は、ホントにやばい。




