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縁の本棚  作者: 雪縁
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本日の一冊 「こぶたのプーと青いはた」

「こぶたのプーと青いはた」【童話館】

       カーラ・スティーブンズ作

       レイニイ・べネット絵

       代田 昇訳


 小学校時代の私は、勉強はわりとできた方だったが、運動となったら、からきしだめな子だった。

 クラスのみんなでソフトボールやドッジボールをしていても、私のミスでチームが負けると、みんなとても悔しがる。中には名指しで非難してくる友だちもいた。

 だから、体育の授業以外は、ひとりで本を読んだり、お話を作っている方がよほど気が楽だった。

 そんなある日。

 算数の授業で、早く問題を解き終えた人から外に出て遊べということになった。

 数人の男子と女子が外に出て行き、私もとりあえずあとに続いたが、内心ゆううつだった。

 図書館に行けと言われた方が数倍うれしいのに。

 まもなく、男女併せてソフトボールをしようということになり、私はますます途方に暮れた。

 すると、ふだんから仲のよかったWくんという子がやってきて、

「おいで。いっしょにやろう」

 そう声をかけてくれた。

「でも、わたし、へたくそだもん」

 及び腰の私に、彼は笑顔で手招いた。

「あそびなんやけん、気にせんでいいよ」

 それでおそるおそる、バットをにぎってやってみたら……。

 なんと空振りせずにちゃんと打てたのだ。

 グローブをもって守ったときも、他の友だちがフォローしてくれて、なんとか点が入った。

 そしてそれはわたしにとって、初めてソフトボールが面白いと思えた時間になったのだった。

 Wくんのお誘いがなければ、とてもできなかったことだと思う。


 「こぶたのプーと青いはた」を読むと、体育のきらいなプーの気持ちがよくわかる。

 ましてや、この日の体育は、チーム対抗のはた取り競争。チーム分けから厄介者扱いされるプーの肩身のせまさも、あの頃の自分そのものだ。


 はた取り競争は、お互いの陣地から早くはたを奪い取った方が勝ち。陣地内で捕まえられたら、牢屋と呼ばれる丸い枠の中に入っておかないといけない。

 やがて、陣地で自由に動けるのは、プーとあらいぐまのラクーン、それに相手チームのふくろねずみ。

 ラクーンはプーに勝てる秘策を打ち明ける。

 自分がふくろねずみの気を引いている間に、プーがはたを奪い取れというのだ。

 尻込みするプーに向かって、ラクーンはきっぱりとひと言。

「へいきよ。これはあそびなんだから」

 そこでプーは全力疾走して、青いはたをとったのだった。


 ラクーンがプーにかけたひと言。

 Wくんが私にかけてくれたひと言。

 たったひと言が、心の重しをとり、限りない勇気を与えてくれる。

 この絵本を読むたびに、しみじみと思い出すことである。


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