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縁の本棚  作者: 雪縁
84/306

本日の一冊 「深い雪の中で」

「深い雪の中で」【講談社】

           遠藤 寛子作


「そのボロボロの本、どうしたの?」

 壊れかけた背表紙をセロテープで補修され、中身もすっかり黄ばんでしまった本を見るなり夫がさけんだ。

「これね、私が小学生のころに読んだ本なの」

「まだ覚えてるの? そんなこと」

 彼はまた、あきれたように私を見つめる。

 そうなのだ。

 この本の初版は昭和四十五年。

 田舎の小学校に、数少ない新刊で入ってきたときから、ずうっと好きな本だった。

 タイトルと作者を覚えていたので、県立図書館で検索してみると、幸いにも、まだ書庫の中に。

 司書さんに出していただき、懐かしくご対面したわけだ。


 舞台は明治から大正にかけての山形県米沢市の城下町。

 主人公は、藩士の家系で、お堅い気風の両親に育てられた少女あや。

 兄と弟の三人兄弟だが、女性が学ぶということを認めようとしない両親に、納得がいかない。

 東京から転校してきた、数学がすこぶる得意なさき。自分が学ぶためには自分で働き、資金をえようとする学生、あやのよき理解者である祖母とその死。姉の嫁ぎ先の職場の現状。

 さまざまなできごとにふれながら、あやは人のために自分が役立てる存在になりたい、そのために上を目指して学びたいと思うようになる。

 祖母の死により遺言で、自分が将来学べるまとまった資金を手にすることができたあやだが、事態は思いがけない方に進んでいく……。


 みずみずしい少女の向学心が、火を付けたのか。

 小学生のときにこの本に出会った私は、翌日から相当、気合いをいれて勉強しはじめた。そう、昼休みすら、遊ばずに問題集を解いていた。

 あのペースで、ずっと勉強を続けていたら……。今頃は、女医さんにでもなっていたかもしれない。

 けれども、悲しいことに向学の魔法は二週間で切れてしまった。

 それ以来、向学心を刺激するような本とは、二度とは巡り会えないままなのである。

 


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