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縁の本棚  作者: 雪縁
79/306

本日の一冊 「花まんま」

 「花まんま」【文春文庫】

        矢川 湊人作


 うすいブルーの中いちめんに咲きほこった花。

 そこにすわる赤いワンピース姿のひとりの少女。

 「花まんま」の表紙絵である。

 この短編集は二〇〇五年の直木賞受賞作品である。


 表題作「花まんま」は兄の立場である主人公・俺の回想という手法で物語がすすんでいくが、冒頭、妹のフミ子が無事に誕生した場面から始まる。

 感極まって病院の玄関でバンザイを叫び、親バカ丸出しで、生まれたてのビリケンさんみたいな赤ん坊を絶賛した父親は、その二年後に事故であっけなく亡くなってしまう。


 以来、親子三人支え合って暮らしていた俺たち。

 そんな冬のある夜を境に、フミ子の様子が一変してしまう。これまでの子どもらしさがまったくなくなり目を離せば、どこへいくともわからなくなるのだ。

 小学校一年になったフミ子は、とつぜん、たったひとりで京都へふらりと行ってしまい、俺たち家族をあわてさせた。


 俺はフミ子の自由帳に「繁田清美」という見しらぬ名前を見つける。

 とても小学一、二年生が書いたものとは思えない。

「加藤」という俺たちの姓の横に並べられた「繁田」の苗字。

 実はフミ子は、自分の前世は繁田清美なのだと俺に打ち明ける。自分の本当の家は滋賀県の彦根にあり、京都へ行ったのも、そこに行くことが目的だったからだと。

 さらに驚くことには、繁田清美だった自分は、デパートのエレベーターガールをしていて、変質者に背中を刺されて亡くなったのだという。

 偶然にもフミ子の背中には、生まれつき、天使の羽の跡のようなアザがあるのだった。


 自分の本当の両親に名乗り出たいというフミ子。

 だが、兄として俺は、それを必死に引き留める。

 フミ子は加藤フミ子なのであり、亡くなった父と、今の母の子どもであり、俺の妹なのだと強く諭す。


 それならば……とフミ子はあるものを俺にたくすのだった。両親にあげてきてくれと。


 それがなにかわかったとき、繁田清美の両親は死後も自分たちを思い続ける娘の存在を知るのだった。


 不思議な出来事を、ノスタルジックに情感豊かに描いた本作以外にも、この短編集には「トカピの夜」「送りん婆」などの六編が収められている。

 どれもゆっくりと味わいながら読んでみたい作品ぞろいなのである。



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