本日の一冊 「雪窓」
「雪窓」【偕成社】
安房 直子作
山本 孝 絵
東京の都心部でもここ数日は寒波が激しいそうだ。
こんな寒い夜に食べたいものは、やはり鍋もの。
そこでとりださずにはいられないのが「雪窓」の絵本だ。
「雪窓」とはおでんやの屋台の名前。
ある夜、一匹のたぬきがやってきて、三角のぷるぷるがほしいという。望みどおりにあつあつのこんにゃくをほおばりながら、とても「雪窓」が気に入ったたぬきは、それからもちょこちょこやってきて、おやじさんの助手になる。
おかみさんを亡くし、そのうえ、ひとり娘の美代も亡くした、ひとりぼっちのおやじさん。
助手のたぬきと過ごす時間はとても楽しいものだった。
ある夜のこと。
遅い時間に雪窓に、ひとりの娘がやってきた。
驚くことに、山ひとつ越えた野沢村から、雪窓のおでんを食べたくなって来たという。
不思議とその娘は亡くなった美代にそっくりだった。
娘はおでんを食べ終わると、ふっといなくなり、屋台には白いアンゴラの手袋が片方だけ残されていた。
おやじさんは片方だけのてぶくろが気になって仕方ない。
ついに野沢村で屋台を出そうと、たぬきと出かけることにした。
雪窓の屋台をひっぱり、おやじさんはたぬきとともに険しい山越えをする。
木の精、天狗、子おにたちなど、さまざまな魑魅魍魎たちがはびこる山の夜道。
ついに、ひとつ目と出会った瞬間、さすがのおやじさんも驚いて両手を離す……とたん、屋台はみるみる雪の下り坂を転げ落ちていってしまった。
雪窓は壊れてしまったのだろうか。
いいえ。雪窓は、野沢村の入り口付近にぽつんと止まり、灯りがともって、中には美代そっくりのあの娘がいた。たくさんのお客を呼んでくれていたのだ。
この作品は、安房直子コレクションに入っているが、絵本は、また違った味わいがある。
賢そうなたぬきの表情。
人情味あふれたおやじさんの顔。
一列に並んだ、いたずらっぽい子おにたち。
可愛らしい笑顔の美代など、挿絵一枚一枚が生きている。
装丁の美しさも、いかにも雪窓らしく、寒い夜には手にとりたくなる一冊だ。




