本日の一冊 「ポテトサラダ」
「ポテトサラダ」【学研・ジュニア文学館】
福 明子作
江頭 路子絵
この物語の舞台は、北口駅前通り商店街。
その商店街のまん中にある、せのお精肉店の店先にぶら下がっているブタのぬいぐるみが、物語の主人公であるトントン。
赤いマントを翻し、片手を前につきだした、さながら、スーパートントンだ。
さて、せのお精肉店のおじいちゃんはポテトサラダを作るのが実にうまい。
おばあちゃんは、コロッケなどの揚げ物がうまい。
おじいちゃんのポテトサラダが大好きで、毎日買いにやってくる男の子のケイくん。
トントンは、ケイくんが感謝の気持ちをこめておじいちゃんたちへ贈ったものなのだ。
やがてケイくんが成長するにつれて、商店街はだんだんと賑やかさを失ってくる。
せのお精肉店も閉店せざるをえない決心を余儀なくされるが、そんなとき、ケイくんに重大な病気が発覚する。
つらい入院中でも、おじいちゃんのポテトサラダだけは食べ続けているというケイくん。
おじいちゃんとおばあちゃんはケイくんのために店を続けることを決意する。
ケイくんの両親は、ケイくんのために毎日ポテトサラダを買いにくるが、おじいちゃんとおばあちゃんは一切何も聞かず、ただポテトサラダを渡すだけ。
トントンは不安でならない。
ケイくんは、少しはよくなっているのか。だんだん悪くなっているのか。いったいどんな具合なのか。
そんな状況に限界を感じたトントンは、ついに本当の「空飛ぶブタ」になって病院を目指すのだが……。
人の善意の温かさ、心の優しさに胸を打たれ、癒される作品だ。
せのお精肉店のおじいちゃんとおばあちゃんをはじめ、ケイくんのクラスメイト、商店街の人々、果ては駐在所のおまわりさんまで、みんな、みんな温かい。
実際、作者の福明子氏も大きな病気と向き合い、闘病中だという。だからこそ書ける「人さまからいただいた元気」のありがたさの物語。
実生活ではお返しが出来ないままだったとあるが、この物語をとおして、みんなに「笑顔と元気」のおすそ分けをしてくれていると思う。
ほのかに甘く、おいしいポテトサラダと、サックリきつね色に揚げたてのコロッケの味とともに。




