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縁の本棚  作者: 雪縁
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本日の一冊 「幸せの王子」

 「幸せの王子」【偕成社】

        オスカー・ワイルド作

        今村 葦子訳

        南塚 直子絵


 現在人気沸騰中の、欅坂というアイドルグループが歌う「不協和音」というヒット曲がある。

 歌の途中で、「ぼくはいやだ!」というフレーズがあるのだが、これを聞く度にため息がでる。

 やりたくないことすべてに、こんなふうにはっきり言えたらどんなにすっきりするだろうと……。


 さて、十九世紀のアイルランドを代表する詩人であり劇作家のオスカー・ワイルド。

「サロメ」や「ドリアングレイの肖像」などの名高い作品もあるが、「幸せの王子」は、幼い子どもたちにも長く読み継がれている名作である。


 若いころ、私はこの作品がとても好きだった。

 与え尽くす愛の素晴らしさに心を打たれ、憧れた。

 おおまかなあらすじはこのようなものである。


 ある街に、幸せの王子の銅像が立っていた。その身体じゅう、混じりけのない金箔でおおわれ、目にはサファイア、劔のつかには大きなルビーが輝いていた。

 街のだれもが憧れ、褒め称える王子の像だった。

 ある日、一夜の宿を借りようと、一羽のつばめが王子の足元に降り立った。そのとき、つばめは王子が泣いていることを初めて知ることになる。

 王子は、街のかたすみで困っている者、悲しんでいる者たちを見捨てておけず、自分の身体から宝石を抜き取って運ぶようにつばめに頼む。つばめは王子の言いつけどおりにして人々を喜ばせることに、嬉しさを感じるものの、自分は一刻も早くエジプトに渡りたい。エジプトには自分を待っている友だちもいるのである。

 だが、王子はあと一日、あと一日とつばめを引き留めて用事を頼み続ける。王子は身体じゅうの宝石を、貧しい人々に与え続け、ついには目も見えなくなり、みすぼらしい姿となる。

 一方、そんな王子を残して、つばめはエジプトに渡る気になれなくなり、とうとう寒さに力尽きで凍え死んでしまう。

 市長や市会議員たちは、王子の像を壊し、かまどで溶かそうとするが、鉛の心臓だけはとけずに残ったので、ゴミの中に、ツバメの死骸とともに捨ててしまった。

 その気高い鉛の心臓と、ツバメの死骸を、神様は天使に持ってこさせた。

 神様の楽園で、ツバメは永久に歌い続け、黄金の都で幸せの王子が我が名を讃えることになるだろうと特別なはからいを受けたのである。


 美しい話である。

が、ツバメの立場としてはどうだったのだろう。

 王子の清らかな尊い行いは、ツバメの協力なくしてはできないことだったけれど、ツバメはエジプトに帰りたかった。暖かい所で、仲間といっしょにずっと生きて暮らしたかったのに。

「ぼくはいやだ!」

 欅坂のフレーズのように、はっきりと王子に伝えられたら、どんなによかっただろう……。


 人生には簡単にそう言えない場面が多すぎる。

 だから、時に辛く、悲しく、悩んでしまうのだ。

 


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