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縁の本棚  作者: 雪縁
61/306

安房直子コレクション6より「鶴の家」

 安房直子コレクション6

【世界の果ての国へ】より


「鶴の家」


 多数あるコレクションの作品の中でも、この物語は少し怪しげな怖さがある。


 ある秋の晩。婚礼がすんだ夜のこと。

 長吉夫婦を訪ねて、若い女がやってくる。

 まっ白な着物に、頭に赤いさざんかをさした女。

 婚礼の祝いにと、一枚の皿を置いて帰った。


 その後、長吉はその女がまちがいなく、以前に自分が間違えてうちおとした丹頂鶴だと気がつく。

 禁猟になっている丹頂鶴をうちおとしたなどど、周囲に知られたら、相当な罰を受けてしまう。長吉は若い妻にくれぐれも内緒にしておくように言い含めるのだった。


 もらった皿は、驚くほどに美しい青い皿だった。

 最初は、薄気味悪さでしまいこんだきりだったが、ある時、長吉の妻が食卓に使ってみたら、それはもう、どんな粗末な食材でさえも美味しく感じられ、そのおかげで長吉はいっそう元気になり、鉄砲の名人になり、家を大きくし、息子が八人も生まれ、ありとあらゆる幸運に恵まれたのだった。


 不思議なことが起こり始めたのは、長吉が亡くなってからだ。

 長吉が死んだその日に、青い皿のまん中に鶴のもようがひとつ、ぽっとうかんだ。そう、それは丹頂鶴。これはまぎれもなく、長吉の魂だと妻は思ったが、昔の長吉との約束を思い出し、家族の誰にも秘密にしていた。

 まもなく三人の息子たちが戦地に赴く。

 連絡がとぎれたころに、ふと皿を見ると、最初の一羽に続いて、三羽の丹頂鶴が皿に増えていた。

 こうして、家の者がだれか亡くなるたびごとに、皿の鶴の数は増えていったのだ。


 皿の中の鶴の変化に気づいたのは、家族の中で曾孫春子ひとりきり。

 その春子が結婚する朝。

 春子は青い皿をとりだして、鶴を一羽一羽指さし、家族を思い出していた。すると、春子は自分もその皿に吸い込まれそうな気がして、思わず皿を落としてしまった。

 割れてしまった皿……と、そのとき。

 その中から、すべての丹頂鶴が羽ばたきながら飛んでいったのである。

 まるで、一羽一羽に命があったかのように。

 春子の門出を祝うかのように。


 静かな作品であるけれど、私の中では強烈なイメージを放った作品である。

 家族の魂が、一羽一羽の鶴となって皿の中に入っていき、そして最後は、一気に皿から飛びたっていく。


 この作品にかかわらず、安房作品には、青い色がよく出てくる。「青」に秘められた幻や悲しみ。ひとかけらの白を加えることによって広がる神秘性。

 彼女はどこまでも青い色のイメージを追いながら、作品に向かっているような気がする。


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