本日の一冊 「きつねのでんわボックス」
「きつねのでんわボックス」【金の星社】
戸田 和代作
たかす かずみ絵
家族がそれぞれに携帯電話を持つようになった現在。
街中のでんわボックスを見かけることが少なくなった。
今の小さな子どもたちは、でんわボックスときいてはたしてピンとくるかな?
さて、山おくになかよしのキツネの親子がいた。
かあさんキツネは、目の中に入れても痛くないくらいに、坊やのキツネをかわいがっていたけれど、あるとき、坊やのキツネは死んでしまう。悲しみでいっぱいのかあさんキツネは、山のふもとの古いでんわボックスに、毎日のようにでんわをかけにやってくる男の子を見かける。男の子のおかあさんは病気で入院中。
男の子はおじいさんの家に預けられているのだった。
でんわボックスで楽しそうにおかあさんと話す男の子に、かあさんキツネは、亡き坊やの面影を重ねてしまう。そして男の子の話す声が、あたかも坊やが自分に話しかけてくれているように感じるのだった。
そんなある日、いつものでんわボックスが使えなくなっていた。もうすぐ男の子がでんわをしにやってくる。どうしたものかと気をもんでいるうちに、かあさんキツネは、立ったままでんわボックスに変身していた。
かあさんキツネの化けたでんわボックスで、男の子が話していたこと。それはまもなく、男の子がおかあさんの近くに引っ越す予定で、でんわしなくても毎日会えるんだということだった。
さびしさにうちひしがれるかあさんキツネの前で、こわれていたはずのでんわボックスにゆっくりと灯りがともる。かあさんキツネは受話器をはずし、話してみる。
「もしもし、ぼうや、あのね、かあさん、まほうがつかえたのよ」
なにも返事はかえってこない。
けれども、かあさんキツネの胸にかすかな灯りがともされたことを読者は感じ、安堵せざるをえない。
子ギツネが忘れられない母の愛。
入院中の母を思う子どもの愛。
親子の愛情が、しみじみとあふれた一冊だ。