本日の一冊 「えのすきなねこさん」
「えのすきなねこさん」【童心社】
にしまき かやこ文・絵
いろんな趣味をもつ友だちがいる。
編み物をしたり、パンを焼いたり、お菓子を作ったり……趣味が高じて、それらを販売したり、プレゼントして喜んでもらえたり、すこぶる実用的である。
一方、お話を創ることが、唯一の趣味の私。
だけど、作家になれない限り、それはまったく実用的ではない。
いったい、なんの役にたつのかしら?
そんな思いにかられていたころ、偶然この絵本に出会った。
ねこさんはえをかくことがだいすき。ひろいアトリエで、あさからばんまでえをかいては、ひとりたのしんでいる。
一方、ともだちのうさぎは、ミシンかけが好きで得意。ねこさんのシャツも仕立ててくれる。
ともだちのきつねは、つりが大好き。ねこにさかなをもってきてくれる。
ともだちのさるは、だいくしごとが得意。すぐさまねこのいすを直してくれる。
ともだちみんなが口をそろえていうことは……。
「えをかいて、なんの役に立つの?」
ねこさんは考えこむ。
みんな、そう言うけれど、だけど……。だけど……。
ねこさんはやはりえをかきつづける。
ミシンがけが得意なうさぎさん
つりが得意なきつねさん
だいくしごとが得意なさるさん
心をこめて、みんなの絵を描いてみる。
そして、ある雨のふる日、ねこさんは、退屈なみんなを絵とお茶でおもてなしするのだ。
初めてねこさんの絵をじっくりと見たともだち。
ねこさんが描いた自分たちの絵をとても喜んだ。
「絵を見るのってたのしいね」
「また、絵を見せてね」
そう言われて、ねこさんはしみじみと思う。
絵をかくのが好きで、じょうずでよかったと。
そうなのだ。絵もお話もまったく実用的ではない。
でも、たったひとりでもだれかの心を和ませ、喜ばせることができたならば、それだけで、十分幸せじゃないか。
すがすがしいねこさんの気持ちが手にとるようにわかる。
好きこそものの上手なれ。
好きなものがあるということは、とても幸せでうれしいことだ。
本書は、講談社出版文化賞、絵本賞の受賞作。
キャンパスに向かうねこさんの絵が生きている。




