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縁の本棚  作者: 雪縁
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本日の一冊 「しずかな日々」

  「しずかな日々」【講談社文庫】

           椰月 美智子作


 タイトルのとおりに、しずかな、しずかな物語。

 ひとりの少年の小学五年生のひと夏を描いた物語であるから、児童書としても読みやすい。


「あなたの人生のターニングポイントはいつですか」と聞かれたら、ぼくはまずその日のことを答えるだろう。はじめての経験。まさに、社会へと小さな一歩を踏み出した記念すべき日だ。

 その年はいろいろなことがあった。あわただしくて、濃密で、そして、ぼくらはちっぽけな五年生の子どもだった。


 えだいちという愛称で呼ばれる「ぼく」が、大人になっての回想記ともいえるのだが、しみじみと懐かしむ回想記とは少しばかり異なる。少年から大人への変わり目の、濃密なひとときを切り取った、あくまでも現在進行形の物語である。


 ものごころついたときから、母親と二人暮らしであった「ぼく」は、なんの取り柄もなく目立つこともない少年だった。勉強もできなければ運動もだめ。友だちもなく、すべてのことにやる気もなく、ひと言でいえば、さえないヤツだった。けれど、五年生のクラス替えで、押野という少年に出会い、また椎野先生に受け持ってもらったことで、これまでのぼくの単調な日々がガラリと変わっていく。そしてその出会いは、ぼくの性格をも前向きに変えていく原動力となっていくのだった。


 さらに大きな変化は、転校を避けるために母親と離れ、おじいさんの家で暮らし始めたことだった。

 母親と折り合いがよくないおじいさんだったが、「ぼく」をやさしく見守り、「ぼく」の友達を大切に労ってくれるのだった。


 こういうあたたかな人たちに囲まれ、「ぼく」はゆっくりと成長していく。

 少年の内面が、本当にていねいに、生き生きと描かれる。

 これといって、大きな事件もないのだが、なぜかじんわりと胸を打ち、惹きつけられずにはいられないのだ。

 それはおそらく、少年少女時代は人生の出発点であり、今に繋がる一本の道であるということを、だれもが感じているからではないだろうか。


 椰月美智子さんは「十二歳」という作品で講談社児童文学賞を受賞され、本書も野間児童文芸賞、坪田讓治文学賞をダブル受賞した作品である。

 機会があったら、是非一度手にとって読んでいただきたいお薦めの一冊である。

 

 



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