本日の一冊 「きかんしゃやえもん」
「きかんしゃやえもん」【岩波書店】
阿川 弘之 文
岡部 冬彦 絵
この作品は、確か私が小学生のころの教科書に載っていたと思う。
ある日、国語の宿題で、「きかんしゃやえもん」の音読をしてくるようにと言われた。
帰ってから、大きな声で朗読している私の前に、
「ちょっとなによ」
母がつかつかとやってきた。
「ねえ、今、やえもんって言ったでしょう?」
そこで、わたしは吹き出した。
母の名前は「八重子」である。てっきりわたしが母のことをそう呼んだものとカンちがいしたらしい。
面白がったわたしは、それからしばらく、母のことを「やえもん」と呼んではからかっていた。
「きかんしゃやえもん」は、石炭で走る、かなりお年寄りの機関車。電気で走る新型の機関車や、レールバスたちからバカにされ、悔しくて悔しくて怒りながら走っているうちに、黒い煙と赤い火の粉をはき出し、とうとう田んぼを火事にしてしまう。
怒ったお百姓さんたちから、やえもんを壊してしまえとブーイングが殺到し、鉄道の人たちも、やむおえず役にたたなくなったやえもんを処分することに決めてしまう。
「そんなのむちゃだ、めちゃだ、むちゃくちゃだ」
肩を落とすやえもん。
するとそこに思いがけない救世主が現れる。その救世主とは博物館の職員。日本でもめずらしい、やえもん機関車をひきとりたいと願い出るのだ。
やえもんは、博物館で子どもたちや、小鳥たちとあそびながら、幸せに暮らすことになった……という、ハッピーエンドのお話。
作品中に、怒りまくるやえもん機関車のあとから、くっついてくる客車のセリフが好きだ。
「そんなに おこるな けっとん」
「わすれて おしまい けっとん」
母からお小言のさいちゅうに、思わずこのセリフがとびだしてしまい、よけいに叱られたような記憶がある。




