本日の一冊 「つるかめ助産院」
「つるかめ助産院」【集英社文庫】
小川 糸作
妊娠・出産がつらいものだったという記憶はない。
おなかの子どもとの一体感を、かけがえのない時間として楽しめたことが最高であった。
こんな両親であたりかはずれだったかは産まれてきた当人でないとわからないけれど、だれでも自分の出生は幸せなものであって欲しいと願うだろう。
この物語の主人公のまりあは、捨て子で乳児院で育ち、里親に育てられた。小野寺くんと結婚し、幸せな時もつかのま。小野寺くんはとつぜん失踪。残されたまりあは妊娠していた。
傷心のまま、行き着いた南の島で、まりあはつるかめ助産院の先生やスタッフ、島の人たちに見守られながら、自分の中に息づくひとつの命を感じながら、自己成長を遂げていく。
つるかめ先生やスタッフのパクチー嬢、だれもが複雑な過去を持つ。けれども島の自然とあたたかな島人の心に癒され、自分たちもまた献身的に、優しく、時には厳しく、まりあに寄り添っていくあたたかさが素晴らしい。
助産院を手伝いながら、まりあは命の誕生の場面を何度も目の当たりにする。それは本当に感動的なものだった。
自然なお産のときに、たちこめる空気は、人が死ぬときのものとなんらかわりないと鶴亀先生は言う。
人の生き死には表裏一体なのだ。
お産の神様に頭を垂れ、命を大切にする島人たち。美しい島の自然の描写にも魅了される作品である。