本日の一冊 「手紙にそえる季節の言葉 365日」
「手紙にそえる季節の言葉 365日」【朝日新聞出版】
山下 景子著
様々な通信手段が生まれ、スピード社会となってきた今日、手紙や葉書を出すということは、めっきり少なくなってきている。
けれども、ていねいな文字で書かれた、自分宛の手紙を郵便受けに見つけたときのうれしさは格別だ。
手書きの重みには劣るけれど、パソコンのワード機能で手紙をしたためることは、個人的には結構ある。
手紙を書き始めるにあたって、まず考えること。それは時候の挨拶だろう。
季節感を共有、書いた時間と相手が読む時間の隔たりをなくすため、あるいは離れた場所と場所とをつなく架け橋のため、さまざまな目的で時候の挨拶は大切だ。
本書は、旧暦の時代、季節の目安とされた二十四節気に基づいて書かれている。古くからつたえられてきた言葉は旧暦の頃の季節感と深く繋がり、本当に美しい語感を放つ。
それぞれの言葉が用例とともに掲載され、春夏秋冬の手紙の例文も読むことができる。
ほんの一例として挙げると……。
十一月二十九日の頁にある言葉は、
「散紅葉」 紅葉がしきりに散る光景をさす。用例として、
・散紅葉がしきりに秋の名残を奏でているようです。
・先月ご一緒したあの山でも、散紅葉が舞っていることでしょう。
そして、まだ散り残っている紅葉は、「冬紅葉」「残る紅葉」と言うのだそう。
他にも《ふみの楽しみ》の知識として、「文香」や「封」のいろいろ、「追伸」「葉書」「便箋」「懸想文」などがあげられている。
興味深いのは「懸想文」だ。
江戸時代は「枕文」といって恋文を枕の下に入れて寝ると恋人の夢が見られたという。また御正月には、「懸想文」という恋文に似せた御札を買い、鏡台や箪笥にしまって、縁談や商売繁盛のお守りにしたとか。想いがたくさんつまった恋文は、言霊が宿って不思議な力を持つのかもしれない。
手書きにせよ、ワードで打つにせよ、手紙はひとえに相手を想いながらしたためるものだ。
恋人同士はもちろん、親にあてて、友にあてて、恩師にあてて、要は書こうという気持ちが大事。
手紙は、ささやかな言葉の贈り物。
晩秋の夜長に、
あの人に向けて、
季節を添えて、
一筆したためてみてはいかが?




